NOTE 142 · 営業の実践ノート
与信とは:新しい取引先と取引を始める前に、営業が知っておくこと
公開:2026年10月3日
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「与信(よしん)」は、辞書では「クレジットカードを発行する、資金を貸し付けるなどの信用を供与すること。」と説明されています。会社どうしの取引では、商品やサービスを先に渡し、代金を後で受け取ることを相手に認める場面で使われる言葉です。取引してよいか、いくらまでか、支払いの条件をどうするかは、会社が決めます。営業の役目は、決めるための情報を集めて社内に渡し、決まった範囲の中で受注することです。
この記事の目次 読みたいところへ ↓
こんなときに 新しい会社から注文をもらえそうになり、「与信は通した?」と聞かれて、何をすればよいか分からないとき。
- 1
新しい取引先か、すでに取引のある相手かを確かめる
- 2
会社の決まった書式で、取引先の情報を集める
- 3
注文を受ける前に、社内の審査に出す
- 4
決まった枠と支払条件の中で受注し、遅れや変化は早く伝える
会話・記入例は、説明用の例です。自分の案件の条件へ置き換えて使ってください。
与信とは:辞書の語釈で確かめる
新しい会社から注文をもらえそうになったとき、上司に「与信は通した?」と聞かれる。意味が分からないまま「はい」と答えてしまう。営業を始めたころに、起きやすい場面です。
「与信」は「よしん」と読みます。辞書(コトバンク「与信」)のデジタル大辞泉は、「クレジットカードを発行する、資金を貸し付けるなどの信用を供与すること。」と説明しています。辞書の例は、カードやお金の貸し付けです。会社どうしの取引では、商品やサービスを先に渡し、代金を後で受け取ることを相手に認める場面で、この言葉が使われます。
代金を後で受け取る売り方には、「掛け売り」という名前があります。関係する言葉を、辞書の語釈と一緒に並べます。「 」の中は、辞書の文をそのまま写したものです。
| 言葉 | 辞書の語釈 | 営業の場面では |
|---|---|---|
| 与信(よしん) | 「クレジットカードを発行する、資金を貸し付けるなどの信用を供与すること。」(デジタル大辞泉) | 代金を後で受け取る取引を、この相手と始めてよいと会社が認めること、という意味で使われることが多い |
| 掛け売り | 「即金でなく、一定期間後に代金を受け取る約束で品物を売ること。」(デジタル大辞泉「掛売り」) | 先に納品し、後で請求して代金を受け取る売り方 |
| 売掛金(うりかけきん) | 「売り掛けの代金。売上代金の帳簿上の未収金額。」(デジタル大辞泉) | 売ったけれど、まだ受け取っていない代金 |
| 与信枠(よしんわく) | 「与信の上限。融資などの限度となる額。」(デジタル大辞泉) | この相手にはここまで、と会社が決めた上限。「与信限度額」と呼ぶ会社もある |
| 審査 | 「詳しく調べて、適否・優劣・等級などを決めること。」(デジタル大辞泉) | 取引を始めてよいか、枠をいくらにするかを、社内で決める手続き |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
出典は、コトバンク「掛売り」・コトバンク「売掛金」・コトバンク「与信枠」・コトバンク「審査」です。
職場では、「与信管理」という言葉も聞きます。取引先ごとに、取引してよいか、上限はいくらか、支払いは約束どおりかを、会社として見続ける仕事を指して使われることが多い言葉です。呼び名も中身も会社によって違うので、自分の会社の決まりを先に確かめます。
なぜ営業に関係があるのか:代金を後で受け取る取引
営業は、注文をもらうと「売れた」と感じます。けれども、掛け売りでは、注文をもらった時点でも、納品した時点でも、代金はまだ入っていません。辞書が売掛金を「未収金額」と書いているとおり、受け取るまでは、まだ途中です。
同じコトバンクの「売掛金」のページにある株式公開用語辞典の解説は、売掛金について「相手先の経営状態が悪化し売掛金を回収することができなくなることがあるリスクも伴います。」と書いています。
払ってもらえないと、何が起きるか。商品はもう相手に渡っています。仕入れの代金や、運ぶ費用は、自分の会社がすでに払っています。入るはずの代金だけが入りません。売上の数字は立っているのに、会社は損をします。売値と仕入れ値の差については、粗利とはで説明しています。
営業に関係がある理由は、二つあります。一つは、営業が、相手の会社にいちばん近い所にいることです。事務所の様子、担当の方の言葉、支払いの遅れに、最初に気づける立場です。審査をする人は、相手に会っていないことが多く、営業が集めた情報をもとに判断します。
もう一つは、営業は、注文を取りたい立場にいることです。取りたい気持ちがあると、「この会社なら大丈夫だろう」と見たくなります。そのため、取引してよいかを決める役目を、営業とは別の人が持つ形にしている会社が多くあります。営業が一人で決めないのは、信用されていないからではなく、役目を分けているからです。
営業がやること4つと、自分で決めないこと3つ
1. 新しい取引先の情報を、会社の決まった書式で集める
新しい取引先と取引を始めるときに、相手に書いてもらう用紙や、営業が書いて出す用紙を決めている会社があります。「取引先登録」「取引申込書」など、呼び名はさまざまです。書く中身は、会社の正式な名前、所在地、代表の方の名前、支払いの担当の方、請求書の送り先、取引の中身と金額の見込み、などです。
自分の言葉でメモを作るのではなく、決まった書式を使うのは、審査をする人が、どの会社についても同じ項目を見比べられるようにするためです。分からない欄は、推測で埋めずに「未確認」と書き、誰に聞くかを添えます。
2. 取引を始める前に、社内の審査を通す
集めた情報を、会社の決まった相手(上司、経理、管理の部署など)に出します。出す時期は、注文を受ける前、遅くとも納品の前です。納品した後では、審査の結果がどうであっても、商品はもう相手の手元にあります。
審査には日数がかかることがあります。見積もりを出す段階で、上司に「A社は新しい取引先です。審査には、いつ、何を出せばよいですか」と聞いておきます(説明用の例です)。日数を知らないまま納期を約束すると、後で相手を待たせることになります。見積書を出す前の確認は、見積書を送る前に確認する7項目にまとめています。
3. 決められた枠を超える受注は、先に相談する
審査が通ると、「この取引先は、ここまで」という上限(与信枠)が決まることがあります。枠の数え方は、会社の決まりによります。一回の注文の金額で見るのか、まだ受け取っていない代金の合計で見るのかを、経理か上司に聞いて確かめます。
枠を超えそうな注文が来たら、「受けます」と答える前に相談します。大きな注文はうれしいものですが、その場で引き受けた後に「社内で通りませんでした」と伝えると、相手は予定を組み直すことになります。「ありがとうございます。数量が多いので、社内で確認して、明日の午前中にお返事します」と、返事の期限を伝えて持ち帰ります(説明用の例です)。
4. 支払いの遅れや、気になる様子を、早く上司に伝える
取引が始まった後も、営業の役目は続きます。入金が約束の日より遅れている、支払いの日を延ばしてほしいと言われた、という変化に気づいたら、その日のうちに上司へ伝えます。早く伝われば、会社は次の納品をどうするかを、先に考えられます。
伝えるときは、見た・聞いた事実と、日付で言います。
惜しい伝え方:「A社、ちょっと危ないかもしれません」
良い伝え方:「A社の◯月分の入金が、約束の◯日から一週間たっても確認できていません。今日、佐藤様に電話で伺ったところ、『来週の水曜に振り込みます』とのお返事でした。来週の木曜に、経理へ入金を確かめます」
説明用の例です。惜しい伝え方は、何を見てそう思ったのかが分かりません。良い伝え方は、何が・いつから・相手は何と言ったか・自分は次に何をするか、が入っています。伝え方の型は、報連相とはにまとめています。
営業が、自分で決めないこと3つ
次の3つは、営業がその場で決めたり、約束したりしないことです。口頭の約束は相手の記憶に残り、後から「やはり、できません」と伝えると、最初に持ち帰るよりも信頼を損ねます。
| 自分で決めないこと | 相手から言われやすい言葉 | その場での答え方(一例) |
|---|---|---|
| 取引してよいかどうか | 「もう注文してもいいですよね」 | 「ありがとうございます。新しくお取引を始める際の社内の手続きがございます。◯日までに、お返事いたします」 |
| いくらまでか(枠) | 「来月は、倍の量をお願いしたい」 | 「承りました。数量が増えますので、社内で確認して、明日お返事します」 |
| 支払いの条件(いつ・どの方法で) | 「支払いは、翌々月でもいいですか」 | 「私の一存ではお答えできません。社内で確認して、◯日までにお返事します」 |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
法律や会計の制度が関わる質問(契約の条件、支払いの期日の決まりなど)が出たときも、同じです。この記事では、法律や財務の判断は扱いません。会社の決まりと、経理・上司に確かめる、と覚えてください。
取引先に書類をお願いするときの言い方
新しい取引先に用紙の記入や書類をお願いすると、相手は「うちは疑われているのか」と感じることがあります。お願いする側が申し訳なさそうにすると、その印象は強くなります。伝えることは三つです。すべての新しい取引先にお願いしている手続きであること、何を・いつまでにお願いするのか、分からない欄はどうすればよいかです。
惜しい言い方1:「御社の信用を調べますので、書類を出してください」
惜しい言い方2:「形だけのものですので、適当に書いていただければ大丈夫です」
良い言い方:「お取引を始めるにあたり、弊社では、新しくお取引いただくすべての会社様に、取引先登録の用紙のご記入をお願いしております。お手数をおかけしますが、◯月◯日(◯)までにご返送いただけますでしょうか。分かりにくい欄がありましたら、空けたままで結構です。私からお電話で伺います」
3つとも説明用の例です。惜しい言い方1は、相手を調べる対象として扱う言葉になっています。惜しい言い方2は、気をつかったつもりでも、会社の手続きを軽く見せています。相手が本当に「適当に」書くと、審査が進まず、もう一度お願いすることになります。良い言い方は、相手だけを特別に調べているのではないこと、期限、困ったときの動き方が入っています。
相手から「なぜ必要なのですか」「ほかの書類も要りますか」と聞かれることがあります。その場で「無くても大丈夫です」と答えずに、「社内で確認して、お返事します」と持ち帰ります。どの書類が要るかを決めているのは、会社の決まりだからです。
受け取った用紙や書類には、相手の会社の大事な情報が書かれています。会社の決まった場所に出し、私物の手帳やスマートフォンに写しません。ほかの取引先との会話で、中身を話題にすることもしません。
場面で変わるところと、審査が通らなかったときの伝え方
やることの骨組みは同じでも、場面によって、先に確かめることが変わります。次の表は一例です。
| 場面 | 先に確かめること | 進め方(一例) |
|---|---|---|
| 新しい取引先から、初めての注文 | 会社の書式と、審査に出す先 | 注文を受ける返事の前に、書式を渡して審査に出す |
| すでに取引のある相手から、いつもより大きな注文 | 今の枠と、まだ受け取っていない代金 | 枠に収まるかを経理か上司に聞いてから、返事をする |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
審査が通らなかったとき、条件が付いたときの伝え方
審査の結果、取引を始められない、または「代金を先に受け取るなら可」のように条件が付くことがあります。相手に伝える前に、上司と三つを決めます。何を伝えるか、代わりにできる形はあるか、誰が・どの方法で伝えるかです。自分だけで文面を作って送ることはしません。
惜しい伝え方1:「御社は、弊社の審査に通りませんでした」
惜しい伝え方2:「私はぜひお取引したかったのですが、経理がだめだと言いまして」
良い伝え方:「社内で検討いたしました結果、今回は、ご希望いただいた条件でのお取引をお受けすることが難しい、との結論になりました。お時間をいただいたうえで、ご期待に沿えず、申し訳ございません」
(代わりの形を会社が認めているとき)「代金を先にお支払いいただく形であれば、お取引を始められます。この形でご検討いただけるようでしたら、手順をご案内いたします」
説明用の例です。惜しい伝え方1は、相手に点数を付けたような言い方で、相手は理由を問いたくなります。惜しい伝え方2は、社内のほかの人のせいにしています。相手から見ると、あなたも同じ会社の人です。会社の中の事情を話すほど、会社への信頼も、あなたへの信頼も下がります。
良い伝え方は、会社としての結論を、自分の言葉として伝えています。理由をくわしく聞かれたときに、どこまで答えるかも、先に上司と決めておきます。決めていないことを聞かれたら、「私からはお答えできる範囲が限られております。あらためて、上司からご説明いたします」と答えます(説明用の例です)。自分で理由を作って話すことはしません。
迷いやすい判断と、間違えたあと
判断1:審査の結果が出る前に、「急ぎで納めてほしい」と言われたら?
基準は、審査が済むまで、納品の日を約束しないことです。約束できるのは、「いつ返事をするか」です。「社内の手続きの結果が、◯日に出ます。その日のうちに、納品できる日をお返事します」と伝えます(説明用の例です)。
判断2:相手は名前の知られた大きな会社。それでも手続きは要る?
基準は、会社の決まりが先、自分の印象は後です。「大きな会社だから大丈夫」と自分で判断して、手続きを省くことはしません。省いてよい場合があるかどうかは、会社が決めています。上司には、「A社は新しい取引先です。用紙は、いつもと同じ形でお願いすればよいですか」と聞きます(説明用の例です)。
判断3:「気になる様子」とは、何を伝えればよい?
基準は、自分の目で見たこと・相手から聞いたことか、自分の推測かを分けることです。伝えるのは、事実のほうです。支払いの日を変えてほしいと頼まれた、入金が約束の日を過ぎた、担当の方と連絡がつきにくくなった、注文の量が急に変わった、などです。
一つの出来事だけで、相手の会社の状態は分かりません。判断するのは会社です。営業は、判断の材料を、早く、そのまま渡す役目です。ほかの人から聞いたうわさは、「誰から、いつ聞いたか」を添え、事実とは分けて伝えます。社外の人には話しません。
失敗1:審査の前に、注文を受けて納期を約束してしまった
その場では:気づいた時点で、すぐ上司に報告します。「A社から注文を受け、◯日の納品を約束しました。取引先登録の手続きは、まだ出していません」と、順番を飛ばしたことをそのまま伝えます(説明用の例です)。相手への連絡は、上司と決めてからにします。報告の順番は営業で失敗したときにまとめています。
後の記録:「見積もりを出す時点で、新しい取引先かどうかを確かめていなかった。次からは、見積もりの前に、取引先の一覧で名前を探す」と書きます(説明用の例です)。
失敗2:支払いの遅れに気づいていたのに、伝えていなかった
その場では:遅れを知った日から何日たっていても、今日伝えます。「もう少し待てば入金されるだろう」と一人で待つほど、次の納品が先に進んでしまいます。
後の記録:「相手の『来週払う』を信じて、報告を後回しにした。次からは、約束の日を過ぎたら、その日のうちに上司へ伝える」と書きます(説明用の例です)。
今日やることは一つです。新しい取引先を一社決め、会社の書式でそろえる情報と、自分で答えず上司・経理に確かめることを書き出してください。
YOUR TURN
自分の一件で、書いてみよう。
手元に用意するもの
会社の取引先登録の書式や、新しい取引を始めるときの手引き。相手の名刺と、これまでの商談メモ。出した見積書の控え。
記入例を見る(説明用)
取引先の名前と、新しい取引先か=A社。これまで取引なし(会社の取引先の一覧で確かめた)。窓口は総務の佐藤様/取引の中身と金額の見込み、相手が希望している支払い=[商品名]を毎月注文したいとのこと。金額の見込みは、見積書の控えのとおり。佐藤様からは「月末にまとめて請求してほしい」と言われた。その場では「社内で確認して、お返事します」と答えた/会社の書式で集める情報=取引先登録の用紙を、今週お渡しした。会社の正式な名前・所在地・代表の方の名前は名刺とホームページで確かめた。支払いの担当の方と、請求書の送り先は未確認(用紙の返送を待つ)/社内の審査=上司に聞いたところ、用紙がそろったら経理へ出す、とのこと。結果が出るまでの日数は未確認。今日、経理に聞く。結果と条件は、出てから書く/自分で答えず、上司・経理に確かめること=月末にまとめて請求する形でよいか。最初の納品は、審査の結果が出てからでよいか。佐藤様には、返事ができる日を、経理に聞いてから伝える。
CHECK
ここまでできたら、次へ。
新しい取引先かどうかを確かめてあり、集める情報の「そろった物・未確認の物」が分かれていて、審査を誰にいつまでに出すかが書いてあり、支払いの条件を自分で答えていない。
うまく進まなかったときは?
会社の書式が見つからなければ、先輩に「新しい取引先と取引を始めるとき、先に出す書類はありますか」と聞く。相手に支払いの条件を聞かれて困ったら、「社内で確認して、◯日までにお返事します」と答えて持ち帰る。審査に出す先が分からなければ、上司に「誰に、何を出せばよいですか」と聞く。