NOTE 155 · 営業の実践ノート
秘密保持契約(NDA)とは:商談の前後で、営業が確かめることと、自分で決めないこと
公開:2026年10月4日
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秘密保持契約は、仕事で見せ合った情報を、ほかの人に漏らさない・別の目的に使わない、と約束する契約です。辞書では「一般に公開されていない秘密情報を第三者に開示されたり、想定外の目的に使用されたりすることを防止するために締結する契約」と説明されています。NDAとも呼ばれます。営業が出会うのは、提案の前に自社の資料を見せるときと、相手から図面や数字を預かるときです。契約の中身は営業が決めません。営業は、契約があるかを確かめ、預かった資料を決まりどおりに扱います。
いま預かっている(またはこれから渡す)資料を一つ選び、秘密保持契約があるか・どこに保管するか・社内で誰に見せてよいかを書き出し、分からない所に「未確認」と書く。
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こんなときに 取引先から図面や数字を預かったとき、または提案の前に「NDAを結びましょう」と言われたとき。
- 1
その取引先との秘密保持契約があるかを、上司か法務の担当に聞く
- 2
預かった資料の保管場所と、見せてよい人を確かめる
- 3
相手に資料を出す前に、出してよいかを上司に確かめる
- 4
返す・消す時期を確かめ、やったことを記録する
会話・記入例は、説明用の例です。自分の案件の条件へ置き換えて使ってください。
秘密保持契約とは:辞書の説明と、NDAという呼び名
見積のために、取引先から図面が届いた。メールには「社外秘でお願いします」とある。あるいは、提案に伺う前に、相手から「先にNDAを結びましょう」と言われた。営業を始めたばかりだと、何をすればよいのか、何をしてはいけないのかが分かりません。
まず、言葉の意味を辞書で確かめます。
| 言葉 | 辞書の語釈 |
|---|---|
| 秘密保持契約 | 「個人または法人が所持する、一般に公開されていない秘密情報を第三者に開示されたり、想定外の目的に使用されたりすることを防止するために締結する契約。守秘義務契約。非開示契約。ノンディスクロージャーアグリーメント。NDA(non-disclosure agreement)。CA(confidential agreement)。」(デジタル大辞泉「秘密保持契約」) |
| 呼び名 | 「機密保持契約ともよばれ、英語の頭文字をとってNDAと略称することもある。」(日本大百科全書(ニッポニカ)「秘密保持契約」) |
| 守秘義務 | 「公務員のほか、医師・弁護士など一定の者に課せられる、業務上の秘密を守る義務。」(デジタル大辞泉「守秘義務」) |
| 営業秘密 | 「企業が営業上の秘密として他者に漏れないよう管理している情報。」(デジタル大辞泉「営業秘密」) |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
辞書の語釈から分かることは、2つあります。1つめは、秘密保持契約が防ぐのは、ほかの人に見せることと、決めた目的のほかに使うことの2つだということです。「外に出さなければよい」だけではありません。
2つめは、呼び名がいくつもあることです。秘密保持契約、機密保持契約、守秘義務契約、NDA。取引先がどの名前で呼んでも、まず同じ種類の契約の話だと受け取って、社内に伝えます。なお、辞書の「守秘義務」は、公務員や医師などに課せられる義務として説明されています。取引先との約束は、契約で決めるものです。
「営業秘密」は、法律の言葉でもあります。経済産業省「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」のページには、営業秘密について「不正競争防止法で定義されており、「有用性」「秘密管理性」「非公知性」の3つの要件を満たす情報です。」と書かれています。預かった情報がこれに当たるかどうかを、営業が判断する必要はありません。当たるかどうかにかかわらず、預かった物は、決まりどおりに扱うと考えます。
営業初心者が出会う2つの場面:資料を見せる・図面や数字を預かる
秘密保持契約は、会社の合併や共同の研究などでも結ばれますが、この記事では、営業初心者が商談の前後で出会う場面にしぼります。大きく2つです。
場面1:提案の前に、自分の会社の資料を見せる
くわしい仕様、原価にかかわる数字、まだ発表していない商品の資料などを、提案のために相手へ見せる場面です。経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」(88ページ)は、取引先への対策の具体例として、次のように書いています。
契約前の商談等の場においては、秘密情報が記載された資料は渡さず、その場で回収したり、コアな情報は伝えないよう徹底する。
相手を疑う、という話ではありません。渡した資料は、相手の会社の中で、こちらの知らない人にも回ります。出す前に、出してよい資料かを確かめておく、ということです。
場面2:相手から、図面や数字を預かる
見積や提案を作るために、相手の図面、仕入れの数量、今の取引価格、困り事の中身などを預かる場面です。ハンドブック(142ページ)には、次の文があります。
日常的に行っている取引の中で、取引先から秘密情報を取得することは少なくありません。
同じページは、書類だけでなく、物についても、社内に知らせておく例として「商品サンプルや試作品等は、それ自体が他社の秘密情報に該当し得る」と書いています。「秘」と書かれた書類だけが、預かり物ではありません。次の表は、営業が出会う場面の例です(説明用の例です)。
| 場面 | 出る・預かる情報の例 | 先に確かめること |
|---|---|---|
| 提案の前に、資料を見せる | 自社の仕様書、価格の内訳 | 出してよい資料か。契約を結んでからか |
| 見積のために、図面を預かる | 相手の図面、使用数量 | どこに保管するか。社内の誰に見せてよいか |
| サンプルや試作品を預かる | 発売前の商品、部品 | 持ち帰ってよいか。いつ返すか |
| オンラインの商談で、画面を見せる | 画面に映る資料、ほかの取引先の名前 | 映してよい画面か。録画されるか |
| 商談の中で、口頭で聞く | 相手の予算、これからの計画 | 社内で、誰に伝えてよいか |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
営業がやること:5つ
契約の文面を読んで判断するのは、法務の担当や上司です。営業がやるのは、次の5つです。
1. 契約があるかを確かめる
資料を預かる前、または出す前に、その取引先と秘密保持契約を結んでいるかを、上司か法務の担当に聞きます。「A社とは、秘密保持契約を結んでいますか。見積のために図面を預かる予定です」と、何をするために聞いているのかを添えます(説明用の例です)。
なぜ先に聞くのか。契約があれば、その契約に書かれた扱い方に従うことになります。無ければ、結ぶかどうかを会社が決めることになります。どちらの場合も、営業が知らないまま資料を動かすと、会社が約束を守れなくなるおそれがあります。
2. 預かった資料の扱い方を確かめる
どこに保管するか、印刷してよいか、持ち出してよいかを、会社の決まりで確かめます。私物のスマホで写真を撮る、個人のメールへ送る、といったことは、会社の決まりで禁じられていることがあります。迷ったら、やる前に聞きます。
ハンドブック(143ページ)は、取引先から受け取った物の扱いの例として、取り扱う従業員を限定することや、「特別のキャビネットや倉庫等において、自社情報と分離して保管したりする」ことを挙げています。自分の会社でどうしているかは、先輩に聞きます。
3. 社内で見せてよい範囲を確かめる
「社内なら、誰に見せてもよい」とは限りません。ハンドブックの参考資料にある秘密保持契約書の例(193ページ)には、次の条文が入っています。
秘密情報等は、本取引の目的以外には使用しないものとする。
これは参考の例で、実際の契約の文面は、会社ごと・取引ごとに違います。ただ、辞書の語釈にも「想定外の目的に使用」を防ぐ、とありました。見積のために預かった図面を、別の商談の参考にする。ほかのお客様への提案に数字を使う。こうした使い方は、預かった目的から外れます。
仕入先や協力会社など、社外の人に見せたいときは、さらに確かめが要ります。同じ参考例には、「秘密情報等を第三者に開示する場合には、書面により相手方の事前承諾を得なければならない。」という文が入っています。自分の会社の契約がどうなっているかは、上司を通じて確かめます。
4. 返す・消すときを確かめる
取引が終わったあと、預かった資料をどうするかです。同じ参考例(194ページ)には、預かった物について「不要となった場合又は相手方の請求がある場合には、直ちに相手方に返還するものとする。」という条文が入っています。
実際の契約に、返すこと・消すことが書かれているか、いつまでにやるかは、法務の担当に確かめてもらいます。パソコンの中の写し、印刷した紙、メールの添付など、自分の手元のどこに残っているかを言えるようにしておくと、確かめが早く済みます。
5. 相手に資料を出す前に、上司に確かめる
自分の会社の資料を出すときは、出す前に上司に見せます。「A社への提案で、この仕様書と価格の内訳を渡したいのですが、渡してよいですか」と、渡す物を具体的に見せて聞きます(説明用の例です)。「渡さずに、その場で見せるだけにして」と言われたら、そのとおりにします。提案の資料の作り方は営業資料の作り方にまとめています。
営業が自分で決めないこと:契約の中身・期間・範囲
次のことは、営業が自分の判断で決めたり、取引先に約束したりしません。
- 契約を結ぶかどうか。「NDAは無しで大丈夫です」とも「結びます」とも、自分では言いません。
- 契約の文面。相手の案の言葉を、自分で直したり、消したりしません。
- 期間。何年のあいだ秘密を守るのか。
- 範囲。どの情報を秘密として扱うのか。
- 署名や押印。会社の決まった人がします。
範囲については、ハンドブック(93ページ)が、取引を始めるときに「秘密保持の対象となる情報をできる限り明確化した秘密保持契約等を締結することが重要です」と書いています。何を秘密として扱うかは、契約の中心になる所で、会社として決めることです。
営業の役目は、決めることではなく、決める人に、材料を正しく渡すことです。どんな資料を、何のために、いつからやり取りするのか。商談で聞いたことを、相手の言葉のまま伝えます。契約書の書類の言葉は捺印と押印の違い、契約の一部を変える書類は覚書とはで説明しています。
契約書が届いたとき・「ここだけの話」と言われたとき
取引先から、秘密保持契約書が届いたとき
- 受け取ったことだけを返信する。「契約書の案を受け取りました。社内で確認のうえ、◯日までにご連絡します」と書きます。「内容は問題ありません」とは書きません。
- 上司に渡す。何の商談のためか、どんな資料をやり取りする予定かを添えます。
- 確認が済むまで、資料のやり取りを進めない。相手から「先に資料だけ送ります」と言われたら、受け取ってよいかを上司に聞きます。
- 結ばれたら、控えの場所と、決まった扱い方を聞く。営業が知っておくことを、上司か法務の担当に教えてもらいます。
惜しい例と良い例
惜しい例:「NDAの件、承知しました。よくある内容ですので、このまま進めていただいて大丈夫です。資料も先にお送りください」
良い例:「秘密保持契約書の案を、ありがとうございます。社内で確認し、今週の金曜までにお返事します。資料は、契約の確認が済んでから、お預かりしてもよろしいでしょうか」
どちらも説明用の例です。惜しい例は、読んでいない契約を「大丈夫」と言い、契約の前に資料を受け取ろうとしています。良い例は、受け取ったこと・返事の日・資料を預かる順番を伝えています。
口頭で「ここだけの話ですが」と言われたとき
商談の中で、相手が「ここだけの話ですが、来期に工場を移す予定で」と話してくれることがあります(説明用の例です)。書類ではないので、扱いがあいまいになりがちです。
ハンドブック(143ページ)は、口頭やメールだけのやり取りについて、次のように書いています。
秘密情報の開示や商品サンプル・試作品等の受領が、口頭やメールでのやり取りに留まって行われた場合であっても、秘密保持契約が成立していたとして提訴されるリスクが存在することから、取引先の秘密情報の内容や、使用目的の制限、秘密保持の期間などについて、書面により確認をすることが望ましい。
口頭の話でも、軽く扱えない、ということです。営業は、次のように動きます。
- 商談のメモに、「ここだけの話、と言われた」と、その言葉のまま書く。
- 社内の雑談や、ほかの取引先との会話で話さない。
- 上司には伝える。そのとき、「先方から、ここだけの話として聞きました」と添える。
- 提案書やメールに書いてよいかは、上司に聞く。相手にも「この件は、社内の上司には伝えてよろしいですか」と確かめておくと、後で迷いません。
上司にも伝えない、という選び方はしません。営業が一人で抱えると、その情報を知らない上司が、別の場面で相手に失礼な提案をしてしまうことがあります。
迷いやすい判断と、預かった情報を間違って出したあと
判断1:契約を結ぶ前に、相手が資料を送ってきたら?
基準は、開く前・広げる前に、上司に聞くことです。「A社から、契約の前に図面が届きました。開いて見積を始めてよいですか」と聞きます(説明用の例です)。届いたメールを、社内のほかの人へ転送するのは、答えをもらってからにします。
判断2:見積のために、社内の技術の担当へ図面を見せてよい?
見せないと見積が作れない、という場面があります。それでも、見せる前に一度、上司に聞きます。契約で、見せてよい人の範囲が決められていることがあるからです。聞くときは、「誰に」「何のために」「どの資料を」の3つを言います。
判断3:相手から「NDAは、御社のひな形でいいですよ」と言われたら?
ひな形があるかどうか、どれを使うかを、営業が決めません。「ありがとうございます。社内で確認して、案をお送りします」と答え、上司に伝えます。インターネットで見つけた文面を、自分で直して送ることはしません。
判断4:取引がなくなった相手の資料が、手元に残っていたら?
自分の判断で捨てたり、消したりしません。返すのか、消すのか、消したことを相手に知らせるのかは、契約によって違います。資料の名前と、どこに残っているかを書き出して、上司に「A社の資料が残っています。どう扱えばよいですか」と聞きます。
預かった情報を、間違って出してしまったあと
A社から預かった図面を、B社あてのメールに付けて送ってしまった。CCに、関係のない人を入れてしまった。こうしたことに気づいたら、すぐ上司に報告します。
その場では:自分だけで片づけようとしません。送った先に「消してください」と頼む前に、A社へおわびの連絡をする前に、まず上司です。ハンドブックの参考例(193ページ)にも、預かった側が守る事項として、次の文が入っています。
漏えい、紛失、盗難、盗用等の事態が発生し、又はそのおそれがあることを知った場合は、直ちにその旨を相手方に書面をもって通知する。
実際の契約にどう書かれているかは、会社が確かめます。営業にできるのは、会社が早く動けるように、事実を早く・正確に伝えることです。伝えるのは、何を・いつ・誰に出したか、いま手元にある記録(送ったメールなど)、の2つです。原因の説明や言い訳は、後にします。
相手への連絡は、上司の指示を受けてからです。メールのあて先の間違いへの動きはCCとBCCの違い、おわびの文の組み立てはお詫びメールの書き方、報告の順番は営業で失敗したときにまとめています。
後の記録:なぜ起きたかを、行動で書きます。「A社の図面を、自分のパソコンの、ほかの資料と同じ場所に置いていた。次からは、預かった資料は案件ごとの場所に分け、添付する前にファイルの名前を声に出して読む」のような形です(説明用の例です)。
今日やることは一つです。いま預かっている資料を一つ選び、秘密保持契約があるか・どこに保管するか・社内で誰に見せてよいかを書き出して、分からない所に「未確認」と書いてください。
YOUR TURN
自分の一件で、書いてみよう。
手元に用意するもの
預かった資料(または渡す予定の資料)の一覧、商談のメモ、会社の情報の取り扱いの決まり。
記入例を見る(説明用)
相手の会社と、秘密保持契約の有無=A社。課長に聞いたところ、去年、秘密保持契約を結んでいるとのこと。契約書は法務の担当が保管している/預かった・これから渡す資料の名前と日付=A社の佐藤様から、今週の月曜に、部品の図面(PDF・3枚)と、月ごとの使用数量の表をメールで預かった。見積を作るため/保管する場所と、社内で見せてよい人=会社の共有フォルダの、A社の案件の場所に入れた。私物のスマホや個人のメールには送っていない。見積を作るために技術の担当へ見せてよいかは未確認(課長に聞く)/返す・消す時期と方法=未確認。見積が終わったあと、消すのか、そのまま持っていてよいのか、法務の担当に聞いてもらう/自分では決めないことと、次にやること=図面をほかの仕入先へ見せてよいかは、自分で決めない。今日中に課長へ「技術の担当と、仕入先のB社に図面を見せてよいですか」と聞く。
CHECK
ここまでできたら、次へ。
秘密保持契約があるかどうかを誰に確かめたかが書いてあり、預かった資料の保管場所と見せてよい人が書いてあり、分からない所に「未確認」と、誰に聞くかが書いてある。
うまく進まなかったときは?
契約があるか分からなければ、上司に「A社とは、秘密保持契約を結んでいますか」と聞く。見せてよい範囲が分からなければ、見せる前に「この図面を、技術の担当に見せてよいですか」と聞く。返す・消す時期が分からなければ、「未確認」と書き、法務の担当に聞いてもらうよう上司に頼む。