NOTE 154 · 営業の実践ノート
覚書とは:契約書・念書との違いと、取引先から「覚書を交わしましょう」と言われたときの動き
公開:2026年10月4日
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覚書(おぼえがき)とは、辞書では「契約をする者同士が交わす、契約の補足や解釈などを記した文書」と説明されている書類です。名前は軽く聞こえますが、国税庁は印紙税について、文書の名前ではなく書かれている内容で判断する、と説明しています。営業は、その場で返事や署名をせず、内容を聞き取って持ち帰り、上司や法務の担当に渡します。
この記事の目次 読みたいところへ ↓
こんなときに 取引先から「覚書を交わしましょう」と言われ、何の書類で、自分は何をすればよいのか分からないとき。
- 1
覚書で決めたい内容と、始める時期を相手に聞く
- 2
もとの契約書の名前と日付を確かめる
- 3
その場で返事や署名をせず、上司・法務の担当に渡す
- 4
文面が商談の内容と合っているかを見比べ、控えを残す
会話・記入例は、説明用の例です。自分の案件の条件へ置き換えて使ってください。
覚書とは:辞書では「契約の補足や解釈などを記した文書」
商談の終わりに、取引先から「では、この件は覚書を交わしましょう」と言われる。契約書とは違うのか。メモのようなものなのか。「はい」と答えてよいのか。初めてだと、ここで手が止まります。
「覚書」は「おぼえがき」と読みます。まず、辞書の説明を見ます。
| 言葉 | 辞書の語釈 |
|---|---|
| 覚書(1つめの意味) | 「忘れないように書き留めておくこと。また、その文書。メモ。備忘録。覚え。」(デジタル大辞泉「覚書」) |
| 覚書(3つめの意味) | 「契約をする者同士が交わす、契約の補足や解釈などを記した文書。」(デジタル大辞泉「覚書」) |
| 覚え書き(法律用語として) | 「契約の当事者が、契約の解釈を明らかにしたり、これを補足するために取り交わす文書。」(精選版 日本国語大辞典「覚書」) |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
辞書には、自分のためのメモという意味と、契約を補う文書という意味の両方が載っています。取引先が「覚書を交わしましょう」と言うときは、後のほうです。「交わす」と言っているので、相手と自分の会社の両方が、同じ内容を認める書類になります。
気をつけたいのは、「覚え書き」という名前の軽さに引っぱられないことです。メモのつもりで「はい、交わしましょう」と答えると、相手は「この会社は、その条件を受けた」と受け取って、次の準備を始めます。
契約書・念書・合意書・確認書との違い:辞書から言える範囲
似た名前の書類が、いくつかあります。辞書に見出しがあるものは、語釈を並べます。
| 言葉 | 辞書の語釈 |
|---|---|
| 契約 | 「二人以上の当事者の意思表示の合致によって成立する法律行為。」(デジタル大辞泉「契約」) |
| 契約書 | 「契約の成立を証明する書類。」(デジタル大辞泉「契約書」)/「契約の条件を記載し、その成立を証明する書類。契約証書。」(精選版 日本国語大辞典「契約書」) |
| 念書 | 「後日の証拠として、念のために作成して相手に渡しておく文書。」(デジタル大辞泉「念書」)/「取引や契約上の副次的な事項に関して後日の証拠として、念のために作成しておく文書。」(精選版 日本国語大辞典「念書」) |
| 合意 | 「互いの意思が一致すること。法律上は、当事者の意思表示が合致すること。」(デジタル大辞泉「合意」) |
| 確認 | 「はっきり認めること。また、そうであることをはっきりたしかめること。」(デジタル大辞泉「確認」) |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
「合意書」「確認書」は、コトバンクで調べたかぎり、見出しが見当たりませんでした。表には、もとになる「合意」「確認」の語釈を載せています。
辞書の語釈から言えるのは、次の範囲です。
- 契約書は、契約の成立を証明する書類。
- 覚書は、契約を補ったり、解釈をはっきりさせたりするために、当事者が取り交わす文書。
- 念書は、後日の証拠として作る文書。デジタル大辞泉の語釈には「相手に渡しておく」とあります。
- 合意書・確認書は、辞書の見出しからは説明できません。使い分けは会社によって違います。
「覚書は契約書より軽い」「念書は覚書より弱い」といった順番は、上の語釈には書かれていません。公的な決まりとして、名前ごとの重さの順を定めたものも、見当たりませんでした。名前で重さを決めず、何が書いてあるかを読むのが、営業にできる確かなやり方です。
名前が「覚書」でも、内容で見られる:国税庁の印紙税の説明
書類の名前と中身の関係について、国がはっきり書いているページがあります。印紙税(契約書などの文書にかかる税金)についての、国税庁のタックスアンサーです。ここからは、印紙税の話として紹介します。
No.7100「課税文書に該当するかどうかの判断」には、次のように書かれています。
課税文書に該当するかどうかの判断は、文書に記載されている内容に基づいて判断します。また、文書の内容判断は、その文書の名称、呼称や形式的な記載文言によるのではなく、その文書に記載されている文言などの実質的な意味を汲み取って行います。
No.7117「契約書の意義」は、印紙税でいう契約書を、次のように説明しています。
契約書とは、文書の名称のいかんにかかわらず、契約当事者間において契約(その予約を含みます。)の成立、更改、または内容の変更もしくは補充の事実を証明する目的で作成される文書をいいます。
覚書そのものを取り上げたページもあります。No.7127「契約内容を変更する文書」です。
「覚書」や「念書」等の表題を用いて、原契約書の内容を変更する文書を作成する場合がありますが、これらの文書(以下「変更契約書」といいます。)が課税文書に該当するかどうかは、その変更契約書に「重要な事項」が含まれているかどうかにより判定することとされています。
すなわち、原契約書により証されるべき事項のうち、重要な事項を変更するために作成した変更契約書は課税文書となり、重要な事項を含まない場合は課税文書に該当しないことになります。
同じページには、具体例として、工事代金の支払方法を変える覚書や、製品の納期を変える覚書が挙げられています。1つめの例は、次の文です。
工事請負契約書(原契約書)により定めた取引条件のうち、工事代金の支払方法を変更する覚書を作成した場合は、第2号文書(請負に関する契約書)の重要な事項である「契約金額の支払方法」を変更するものですから、この覚書は原契約書と同じく第2号文書として取り扱われます。
つまり、印紙税では、表題が「覚書」でも、もとの契約の大事な所を変える内容なら、契約書と同じ扱いになる場合がある、ということです。「覚書だから印紙は要らない」とも「覚書なら要る」とも、名前だけでは言えません。
この記事では、個別の覚書について、印紙が要るか、契約としてどう扱われるかを判断しません。営業は、覚書の案を経理や法務の担当に見せて、「この覚書に、印紙は要りますか」「この内容で進めてよいですか」と聞きます。印紙の話は注文請書とは、貼ったあとの消印は割印とはにもまとめています。
営業が覚書を交わす場面と、書く項目
営業の仕事で覚書の話が出るのは、すでにある契約や取引の一部を変えるときや、細かい所を決め足すときです。次の表は、説明用の例です。
| 場面 | 覚書に書かれることの例 | 営業が先に確かめること |
|---|---|---|
| 価格を変える | どの品目を、いつの注文分から、いくらに変えるか | もとの契約書や見積書の金額。変えてよいと、誰が決めたか |
| 納期を変える | どの注文の納期を、いつに変えるか | 変えた納期で、自分の会社が納められるか |
| 支払条件を変える | 締め日、支払日、支払い方法をどう変えるか | 経理の担当と上司が、認めているか |
| 細かい取り決めを足す | 納品の場所、受け取りの確かめ方、連絡の窓口など | もとの契約書に、同じことが別の形で書かれていないか |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
納期の内訳はリードタイムとは、受け取りの確かめは検収とは、支払条件を変えるときに社内で見られる取引の枠は与信とはで説明しています。
覚書の様式は、会社ごとに違います。文面を作るのは、法務の担当や上司です。営業は、次の項目が入っているか、商談で話した内容と合っているかを見ます。
- 表題。「覚書」「◯◯に関する覚書」など。
- 当事者。相手の会社と自分の会社の、正式な名前。
- もとの契約。どの契約書についての覚書か。契約書の名前と日付。
- 変える・決める内容。「変える前」と「変えた後」が並んでいると、読み違いが減ります。
- いつから、いつまで。始まる日と、期限があるなら終わる日。
- ここに書いていない所の扱い。もとの契約のままなのかどうか。
- 日付と、署名または記名押印の欄。言葉の意味は捺印と押印の違いにまとめています。
- 何通作り、誰が持つか。2通作るときの印は割印とはで説明しています。
なぜ「もとの契約」を書くのか。辞書の語釈のとおり、覚書は契約を補う文書です。どの契約を補うのかが書かれていないと、後から読んだ人は、何が変わったのかをたどれません。
見比べ方:商談のメモと、覚書の案を並べる
覚書の案が届いたら、商談のメモ、見積書、もとの契約書を横に並べます。数字、日付、品名、会社名を一つずつ指でたどり、違う所と、商談で話していない所に印を付けます。印を付けた所は、自分で直さず、そのまま上司に見せます。見積書の項目は見積書の書き方にまとめています。
「覚書を交わしましょう」と言われたときの動き:持ち帰って、上司・法務へ
取引先から覚書の話が出たら、次の順で動きます。営業が、自分の判断で文面を変えたり、署名や押印をしたりしないことが、全体を通した決まりです。
- 内容を聞き取る。何を、いつから変えたいのか。文面はどちらが作るのか。いつまでに交わしたいのか。相手の言葉のままメモします。
- その場では、受けるとも断るとも言わない。「社内で確認して、◯日までにご連絡します」と、返事の日を伝えます。
- 上司に報告する。聞き取った内容と、もとの契約書の名前を伝えます。法務や経理の担当に回すかどうかは、上司が決めます。
- 文面は、決められた人が確かめる。相手が作った案でも、自分の会社が作る案でも、読むのは法務の担当や上司です。営業は、商談の内容と合っているかを見比べて、気づいた点を伝えます。
- 署名や押印は、会社の決まった人がする。営業が自分の名前で署名したり、会社の印を持ち出して押したりしません。
- 控えを残し、関係する人に伝える。交わした覚書の控えを、会社の決まった場所に保管します。価格や納期が変わったなら、受注や請求の担当にも伝えます。
手順2が大事なのは、覚書に書く内容が、価格・納期・支払いなど、会社として決めることだからです。営業がその場で「大丈夫です」と言うと、相手は社内でその話を進めます。後から「やはり受けられません」となれば、相手に手間をかけます。
惜しい例
取引先:「来月から支払いの条件を変えたいので、覚書を交わしましょう。案を持ってきました」
自分:「承知しました。覚書ですね。では、ここに私のサインでよろしいですか」
説明用の例です。内容を読む前に、自分の名前で署名しようとしています。支払条件を変えてよいかを、会社の誰も確かめていません。
良い例
取引先:「来月から支払いの条件を変えたいので、覚書を交わしましょう。案を持ってきました」
自分:「ありがとうございます。案をお預かりします。確認ですが、来月の納品分から、支払日を変える、という内容でよろしいでしょうか」
取引先:「そうです。月末締めの翌月末払いにしたいんです」
自分:「月末締めの翌月末払い、ですね。支払いの条件は、私だけでは決められませんので、社内で確認します。金曜までに、進め方をご連絡してよろしいでしょうか」
これも説明用の例です。相手の言葉をくり返して内容を確かめ、自分では決められないことを伝え、返事の日を約束しています。相手は、いつ返事が来るかが分かるので、待つあいだの予定を立てられます。
場面によって、動きが少し変わります。次の表は一例です。
| 場面 | 動き(一例) |
|---|---|
| 相手が、文面の案を持ってきた | 受け取って持ち帰る。その場で書き込んだり、署名したりしない |
| 「そちらで作ってください」と言われた | 聞き取った内容を上司に渡す。営業が、過去の覚書を写して自分で作らない |
| メールで案が届いた | 上司をCCに入れるかどうかは、会社の決まりに合わせる。返信は「受け取りました。社内で確認します」まで |
| 相手が急いでいる | いつまでに要るのかと、その理由を聞いて、上司にそのまま伝える。急ぐために、確かめる手順を飛ばさない |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
迷いやすい判断と、内容を間違えたまま進めたあと
判断1:覚書にするか、契約書を作り直すか、どちらがよい?
営業が決めることではありません。基準は、聞かれたら「社内で確認します」と答えるです。上司には、「A社から、支払条件を変える覚書の話がありました。覚書で進めるか、契約書を作り直すか、どなたに確認すればよいですか」と聞きます(説明用の例です)。変えたい内容と、もとの契約書の名前を添えると、上司は判断しやすくなります。
判断2:「メールでやり取りすれば、覚書は要りませんよね」と言われたら?
書類にするか、メールで済ませるかも、営業が自分で決めません。会社によって、契約にかかわる変更は書面にする、という決まりがあります。相手には、「書面にするかどうかも含めて、社内で確認します」と答えます。印紙が要るかどうかを理由に、営業が形を選ぶこともしません。
判断3:相手の案に、商談で話していない一文が入っていたら?
基準は、その場で「これは困ります」とも「問題ありません」とも言わないことです。その一文に印を付け、上司に「この文は、商談では出ていません」と事実だけを伝えます。相手に悪気があるとは限りません。相手の会社の決まった様式に、もともと入っている文かもしれません。
判断4:上司が不在で、相手から「今日中に署名を」と言われたら?
署名も押印もしません。相手には、「本日は、確認できる者が不在です。明日の午前中に確認し、昼までにご連絡します」と、いつ・誰が・何をするかを伝えます(説明用の例です)。上司には、電話かメールで、相手の希望と期限をそのまま伝えます。急ぎの相談のしかたは報連相とはにまとめています。
内容を間違えたまま進めたあと
覚書を交わしたあとで、数字や日付が商談の内容と違うと気づくことがあります。価格の桁、始まる月、対象の品目などです。
その場では:自分で書き直しません。二重線を引く、差し替えの紙を作って送る、相手に電話して「直しておいてください」と頼む、のどれもしません。同じ覚書が、相手の手元にもあるからです。片方だけ直すと、2通の内容が食い違います。
まず上司に報告します。覚書の控え、商談のメモ、見積書を並べて、「覚書の第2条は、来月からとなっています。商談のメモでは、再来月からでした」と、どこが・どう違うかを見せます(説明用の例です)。直し方は、上司と法務の担当が決めます。相手への連絡は、その指示を受けてからです。おわびの文の組み立てはお詫びメールの書き方、報告の順番は営業で失敗したときにまとめています。
後の記録:なぜ気づけなかったかを書きます。「案を、商談のメモと並べずに読んだ。次からは、数字と日付を一つずつ指でたどる」のような形です(説明用の例です)。メモの残し方は商談メモ添削を見てください。
今日やることは一つです。取引先から覚書の話が出た一件について、何を・いつから変えるのかを相手の言葉のまま書き出し、社内で誰に渡すかを決めてください。
契約書に出てくる「甲」「乙」の読み方は、契約書の甲乙とはで確かめられます。
YOUR TURN
自分の一件で、書いてみよう。
手元に用意するもの
もとの契約書(または注文書・見積書)の控え、商談のメモ、会社の契約の決まりが分かるもの。
記入例を見る(説明用)
相手の会社と、もとの契約書=A社。購買の佐藤様。もとの契約書は「取引基本契約書」。日付は未確認(会社の控えを、今日中に見る)/変える・決める内容=佐藤様の言葉は「来月の納品分から、支払いを月末締めの翌月末払いに変えたい。覚書を交わしましょう」。今の支払条件は、契約書の控えで確かめる/いつから・いつまで=来月の納品分から。いつまでかは聞いていない(未確認。次の連絡で聞く)/自分では決められないことと、社内で確かめる相手=支払条件を変えてよいか、覚書の文面をどちらが作るか、誰が署名や押印をするか、印紙が要るか。課長に報告し、法務と経理の担当に確かめてもらう/次にやること=自分:今日中に課長へ報告する。佐藤様には「社内で確認し、金曜までに進め方をご連絡します」と伝えた。佐藤様:文面の案があれば、メールで送ってくださる。
CHECK
ここまでできたら、次へ。
相手が覚書で決めたい内容と始める時期が相手の言葉で書いてあり、もとの契約書の名前が分かり、自分では決められないことを誰に確かめるかが書いてある。
うまく進まなかったときは?
相手が何を決めたいのか分からなければ、「どの点を、いつから変えるお話でしょうか」と一つ聞く。もとの契約書が見つからなければ、上司に「A社との契約書は、どこで見られますか」と聞く。社内の誰に渡せばよいか分からなければ、上司に「覚書の話が出ました。どなたに確認すればよいですか」と聞く。