NUSSI’S SALES NOTEウッシの営業ノート

NOTE 182 · 営業の実践ノート

契約書の甲乙とは:意味と、どちらが甲かの決まり、読み間違いを防ぐ確かめ方

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契約書を開くと、「甲は、乙に対し」という文が並んでいます。甲・乙は、契約を結ぶ会社や人の名前を、短く言いかえるための呼び名です。どちらが自分の会社かを取り違えると、だれが何をするのかを、逆に読むことになります。この記事では、甲乙の意味、どちらが甲かに決まりがあるのか、丙・丁、そして読み間違いを防ぐ確かめ方をまとめます。契約の中身の判断は扱いません。

今日できるようになること

手元の契約書(またはその案)一通について、甲と乙がだれかを余白に書き、条文一つを会社名に置きかえて読む。

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こんなときに 取引先から契約書の案が届き、「甲」「乙」のどちらが自分の会社なのか、読み方に自信がないとき。

この順番で進めよう
  1. 1

    契約書の最初の文を読み、甲・乙がだれかを見つける

  2. 2

    余白かメモに「甲=〇〇社、乙=△△社」と書く

  3. 3

    条文を、会社名に置きかえて読み、商談のメモと見比べる

  4. 4

    分からない所に印を付け、上司や法務の担当へ渡す

会話・記入例は、説明用の例です。自分の案件の条件へ置き換えて使ってください。

甲乙とは:辞書の意味

甲(こう)と乙(おつ)は、もとは「十干(じっかん)」と呼ばれる、甲・乙・丙・丁などの十個の言葉の、一番目と二番目です。辞書では、甲は「十干の第一。」(デジタル大辞泉「甲」)、乙は「十干の2番目。」(デジタル大辞泉「乙」)と説明されています。甲について、同じ辞書には、次の意味も載っています。

「複数の物や人を区別するときに、その名の代わりとして用いる語。」(デジタル大辞泉「甲」)

契約書の甲・乙は、この使い方です。契約を結ぶ会社や人の名前を、何度も書く代わりに、甲・乙と呼びます。契約を結ぶ会社や人のことを、当事者といいます。辞書では「ある法律関係に直接関与する人。」(デジタル大辞泉「当事者」)とされています。

「甲乙」という二字の言葉には、別の意味もあります。辞書には「第一と第二。」(デジタル大辞泉「甲乙」)と、「二つのものの間の優劣。」(デジタル大辞泉「甲乙」)の2つが載っています。「甲乙をつけがたい」というときの甲乙は、優劣の意味です。契約書の甲・乙は、名前の代わりとして使われているもので、この記事では、その使い方だけを扱います。

営業の仕事で甲乙に出会うのは、契約書、覚書、秘密保持契約書などを、取引先とやり取りするときです。書類ごとの説明は、覚書とは、秘密保持契約(NDA)とはにまとめています。

契約書での使われ方:官公庁の参考例から

実際の形を、官公庁が出している参考例で見てみます。経済産業省「参考資料2 各種契約書等の参考例」(PDF)には、秘密保持契約書の例が載っています(2026年10月4日に確認)。最初の文は、会社名を書く空欄のあとに「(以下「甲」という。)」、もう一つの空欄のあとに「(以下「乙」という。)」と続き、「甲又は乙が相手方に開示する秘密情報の取扱いについて」契約を結ぶ、という形になっています。

読み方は、こうです。最初の文で、「この会社を、ここから先は甲と呼びます」と決めている。そのあとの条文に出てくる「甲」は、すべてその会社を指します。甲・乙がだれなのかは、契約書ごとに、最初の文で決まります。

同じ形は、会社の名前以外にも使われています。この例の最初の文には、「(以下「本取引」という。)」「(以下「本契約」という。)」という言い方も出てきます。長い言葉を、「以下〇〇という」と短い呼び名に決めて、あとの条文ではその呼び名を使う。甲・乙は、その呼び名のうち、当事者に付けられたものです。条文の中で、かぎかっこ付きの呼び名に出会ったら、それがどこで決められているかを、前に戻って探します。

同じ資料の、ほかの例も見てみます。取引基本契約書の例には、「(金型)製造業者(乙)が、取引先(甲)から試作品・金型及びこれに付帯する製品の製作、改造又は修理を請け負う場合の基本契約書の条項の例」という説明が付いています。業務委託契約書の例には、「企業(甲)が、自己の特定の業務についてこれを他社(乙)に委託する場合であって、甲のみが秘密情報を開示する場合の契約書の条項の例」とあります。

条文の中では、たとえば「目的物及び成果物に化体された秘密情報は、乙に帰属する。」のように書かれています。この一文は、乙がだれなのかを知らないと、意味が取れません。甲と乙を逆に読めば、意味も逆になります。

この資料は、自らを「以下はあくまで参考例の一つにすぎず」と説明しています。実際の契約書の形は、会社や取引によって違います。

どちらが甲か、決まりはあるのか

「お客様が甲」「注文する側が甲」と聞くことがあります。上の参考例でも、取引先(注文する側)や、業務を委託する企業が甲になっていました。

ただし、どちらを甲にするかを定めた公的な決まりは、調べた範囲では見当たりませんでした。参考例がそうなっている、ということと、そうしなければならない、ということは別です。秘密保持契約書の例では、どちらの会社が甲なのかは、空欄のままになっています。

営業にとって大事なのは、次の2つです。

  • 「うちは売る側だから乙のはず」と、思い込みで読まない。相手の会社が用意した案と、自分の会社が用意した案では、甲乙の割り振りが違うことがあります。毎回、最初の文で確かめます。
  • 甲乙の割り振りを、自分で決めない。自分の会社のひな形でどちらを甲にしているか、相手から変えてほしいと言われたときにどうするかは、会社の決まりと、法務の担当の判断です。

甲か乙かで、契約の上での立場が有利・不利になるのか。この記事では言い切れません。自社の法務や専門家に確かめてください。辞書の上では、契約書の甲・乙は「名の代わり」です。何を約束しているかは、条文の中身に書かれています。

甲乙を使わない書き方もある

甲乙を使うことも、決まりではありません。国土交通省は、建設工事の標準請負契約約款の平成22年の改正について、パンフレットで次のように知らせています(国土交通省のパンフレット「公共工事の受発注者の皆さんへ」(PDF)。2026年10月4日に確認)。

「約款中の呼称が「甲」・「乙」から、「発注者」・「受注者」に変更されました」

呼び名を、役割が分かる言葉に変えた例です。ほかの契約書でも、「委託者・受託者」「売主・買主」のような呼び名が使われることがあります。呼び名が何であっても、最初の文で「だれを、何と呼ぶか」を確かめる、という読み方は同じです。

なお、同じ改正を案内する国土交通省「建設工事の標準請負契約約款(平成22年7月26日改正)を活用しましょう!」のページには、「甲約款」「乙約款」という言葉が並んでいます。これは、約款の種類を区別する名前として甲・乙を使っているもので、当事者の呼び名ではありません。甲・乙は、契約の当事者に限らず、ものを区別する名前として使われることがあります。

丙・丁:三者以上のとき

契約を結ぶ当事者が三者になると、三番目を丙(へい)と呼ぶことがあります。四者なら、四番目は丁(てい)です。辞書では、丙は「十干の第三。」(デジタル大辞泉「丙」)、丁は「十干の第四。」(デジタル大辞泉「丁」)と説明されています。甲・乙に続く、十干の三番目と四番目です。

営業の仕事では、たとえば、自分の会社・取引先・納入先の三者で取り決めをする場面や、保証をする人が加わる場面が考えられます(説明用の例です)。三者以上になると、「甲は、乙及び丙に対し」のように、文が込み入ってきます。だれが、だれに、何をするのかを、会社名に置きかえて読む手間が、二者のときより大事になります。

字読み辞書の説明(デジタル大辞泉)契約書での使われ方
甲こう十干の第一一人目の当事者の呼び名
乙おつ十干の2番目二人目の当事者の呼び名
丙へい十干の第三三人目の当事者の呼び名
丁てい十干の第四四人目の当事者の呼び名

表が収まらない場合は、左右に動かせます。

右の列は、この記事での説明です。だれが甲で、だれが丙なのかは、ここでも、契約書の最初の文で決まります。

読み間違いを防ぐ5つの確かめ方

甲乙の取り違えは、気をつけていても起こります。甲と乙は、どちらも一文字で、文の中に何度も出てくるからです。次の順で確かめます。

  1. 最初の文で、甲・乙がだれかを見つける。「(以下「甲」という。)」の前に書かれている名前を見ます。ここを飛ばして条文から読み始めると、思い込みで読むことになります。
  2. 余白かメモに書く。「甲=A社、乙=当社」と書きます(説明用の例です)。書類に書き込んでよいかは、会社の決まりに合わせます。書き込めないなら、写しか、別の紙に書きます。
  3. 条文を、会社名に置きかえて読む。「乙は、甲に対し、毎月末日までに報告書を提出する」を、「当社は、A社に対し、毎月末日までに報告書を出す」と読みかえます(説明用の例です)。置きかえると、自分の会社がやることなのか、相手がやることなのかが、はっきりします。
  4. 商談のメモと見比べる。金額、数量、期限、だれがやるか。商談で話したことと、条文が合っているかを見ます。違う所に印を付けます。
  5. 署名の欄を見る。最後の署名や記名の欄にも、(甲)(乙)と書かれていることがあります。最初の文と、署名の欄で、甲乙の割り振りが同じかを見ます。印の扱いは捺印と押印の違いにまとめています。

確かめたら、社内に伝えます。伝え方で、読み間違いが広がるかどうかが変わります。

惜しい例:「契約書の案が届きました。甲が毎月報告することになっています」

良い例:「A社から契約書の案が届きました。この案では、甲がA社、乙が当社です。第3条で、当社がA社に、毎月末日までに報告書を出すことになっています。商談では『3か月に一度』と話していたので、違いがあります。案を添付します」

どちらも説明用の例です。惜しい例は、「甲」がどちらの会社なのかを、聞いた人が自分で調べなければなりません。聞いた人が逆に受け取ると、間違いがそのまま広がります。良い例は、甲乙がだれかを先に言い、そのあとは会社名で話しています。商談のメモとの違いも、事実として添えています。

場面によって、気をつける所が変わります。次の表は一例です。

場面気をつける所進め方(一例)
相手の会社が作った案が届いた自分の会社のひな形と、甲乙が逆のことがある最初の文で確かめ、余白に書いてから読む
自分の会社のひな形を送る相手が読み違えることがある送るメールに「甲が弊社、乙が御社です」と一文を添えてよいか、上司に聞く
前の契約に足す覚書が届いた元の契約書と、甲乙が同じとは限らない元の契約書を横に置き、最初の文どうしを見比べる
三者以上の契約丙・丁が出てくる全員分を「甲=、乙=、丙=」と書き出してから読む
口頭や電話で、内容を伝える「甲」「乙」は聞き間違えやすい甲乙を使わず、会社名で言う

表が収まらない場合は、左右に動かせます。

迷いやすい判断と、逆に読んで伝えたあと

判断1:相手から「うちを甲にしてほしい」と言われたら?

基準は、その場で答えないことです。甲乙を入れかえると、条文の「甲」「乙」をすべて直すことになり、直しもれがあると、意味が変わります。「社内で確認して、〇日までにお返事します」と持ち帰り、上司や法務の担当に、相手の言葉のまま伝えます(説明用の例です)。

判断2:メールや会話でも、「甲は」「乙は」と言ったほうがよい?

基準は、相手が、調べずに分かるかです。契約書の外では、会社名で言うほうが、取り違えが起きにくくなります。条文を指すときは、「第3条の、弊社が報告書をお出しする件ですが」のように、条の番号と会社名を合わせて言います(説明用の例です)。相手の会社と自分の会社の呼び方は、御社と貴社と弊社と当社にまとめています。

判断3:甲乙の意味は分かった。条文の中身も、自分で判断してよい?

甲乙が読めることと、契約の中身を判断できることは、別です。営業がやるのは、だれが何をすると書いてあるかを読み、商談で話したことと違う所を見つけて、社内に渡すところまでです。その条文で自分の会社が困らないかどうかは、上司や法務の担当が判断します。届いた案への動き方は、覚書とはの「持ち帰って、上司・法務へ」と同じです。

判断4:最初の文に、甲乙の説明が見つからないときは?

契約書ではなく、その一部(別紙や、覚書の二枚目)だけを見ているのかもしれません。前のページや、元の契約書を探します。それでも見つからなければ、推測で読まず、上司に「甲乙がだれを指すのか、この書類だけでは読み取れません」と伝えます(説明用の例です)。相手に聞く前に、社内で確かめます。

失敗のあと:甲乙を逆に読んで、社内に伝えてしまった

気づいたら、すぐに:伝えた相手(上司や法務の担当)に、訂正を伝えます。「先ほど『A社が毎月報告する』とお伝えしましたが、甲乙を逆に読んでいました。正しくは、当社がA社に報告する、です。申し訳ありません」(説明用の例です)。何を間違えて、正しくは何かを言い、言い訳は足しません。

取引先に、もう返事をしていたら:自分だけで直そうとせず、上司に、返事の内容と日時を見せて相談します。署名や押印まで進んでいた場合に、どう直すのか。この記事では言い切れません。自社の法務や専門家に確かめてください。

記録:「どの条文を、どう逆に読んだか」「気づいたきっかけ」「次は、最初の文で甲乙を確かめ、余白に書いてから読む」と書きます(説明用の例です)。報告のしかたは、営業で失敗したときにまとめています。

今日やることは一つです。手元の契約書(またはその案)一通について、甲と乙がだれかを余白に書き、条文を一つ、会社名に置きかえて読んでください。

YOUR TURN

自分の一件で、書いてみよう。

手元に用意するもの
契約書(またはその案)、商談のメモ、筆記用具。会社の決まりで書き込めない書類は、写しか別のメモを使う。

記入例を見る(説明用)

書類の名前と、届いた日・相手=業務委託契約書の案。月曜に、A社の佐藤様からメールで届いた/甲はだれか・乙はだれか=最初の文に「A社(以下「甲」という。)と、当社(以下「乙」という。)は」とある。甲=A社、乙=当社/会社名に置きかえて読んだ条文=第3条「乙は、甲に対し、毎月末日までに報告書を提出する」→「当社は、A社に対し、毎月末日までに報告書を出す」。当社がやること/商談のメモと違う所・分からない所=商談では、報告は「3か月に一度」と話した。案では「毎月」になっている。第7条の言葉の意味が分からない(未確認)/次にやること=自分:今日中に、案とメモを上司に渡し、違う所を伝える。佐藤様には「社内で確認し、金曜までにお返事します」と送る。中身の判断は、上司と法務の担当に任せる。(すべて説明用の例です)

入力は自動保存されません。ページを移動する前に保存してください。保存した内容は他の人に自動送信されません。

CHECK

ここまでできたら、次へ。

甲と乙がだれかを、余白に書けましたか。条文を一つ、会社名に置きかえて読めたら、商談のメモと違う所に印を付けて、上司や法務の担当へ渡します。

うまく進まなかったときは?

最初の文に甲・乙が見つからないときは、「発注者」「受注者」「委託者」「受託者」など、ほかの呼び名が使われていないかを見てください。それでも分からなければ、そのまま上司に「だれがどの呼び名か、読み取れませんでした」と伝えます。相手に確かめる前に、社内で聞きます。

NEXT NOTE

次に読むなら

覚書とは秘密保持契約(NDA)とは捺印と押印の違い