NOTE 121 · 営業の実践ノート
「何卒」の意味と使い方:強く願う言葉なので、使う場面を選ぶ
公開:2026年10月3日
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「何卒」は「なにとぞ」と読み、辞書では「相手に強く願う気持ちを表す」言葉と説明されています。お願いを強める言葉なので、相手に負担をかけるお願いのときに使うと、意味と合います。この記事では、辞書の語釈をもとに、「どうぞ」「どうか」「ぜひ」との違い、合う場面、組み合わせの形、メールの例を説明します。
この記事の目次 読みたいところへ ↓
こんなときに 結びに「何卒」を付けるかどうかで迷うとき。無理なお願いやおわびの後のお願いを、どう書けばよいか分からないとき。
- 1
お願いの中身と、相手にかかる負担を書き出す
- 2
「何卒」を付けるか付けないかを、理由と一緒に決める
- 3
結びの一つ前に、何を・いつまでにを一文で書く
- 4
付けるなら一通に一度だけ。上司に見せてから送る
会話・記入例は、説明用の例です。自分の案件の条件へ置き換えて使ってください。
「何卒」の意味と読み
無理なお願いのメールを書くとき、結びに「何卒よろしくお願い申し上げます」と打つ。先輩のメールで見かけて、そのまま使っている人も多い言葉です。先に、意味を辞書で確かめます。「 」の中は、辞書の文をそのまま写したものです。
読みは「なにとぞ」です。デジタル大辞泉「何卒」は、成り立ちを「代名詞「なに」+格助詞「と」+係助詞「ぞ」から」と説明し、2つの意味を挙げています。
- 1番目:「相手に強く願う気持ちを表す。どうぞ。どうか。」(例として「何卒お許しください」)
- 2番目:「手段を尽くそうとする意志を表す。なんとかして。ぜひとも。」
仕事のメールで使うのは、1番目の意味です。同じページの精選版 日本国語大辞典も、2番目の意味として「相手への強い懇願の気持を表わす。」と説明しています。「懇願」は、デジタル大辞泉「懇願」で「ねんごろに願うこと。ひたすらお願いすること。」です。
二つの辞書に共通しているのは、「強く」という言葉です。「何卒」は、文をていねいに見せる飾りというより、お願いの強さを上げる言葉です。
この記事では、「何卒」という言葉そのものを扱います。後ろに続く「お願いします」「お願いいたします」「お願い申し上げます」の違いは、「よろしくお願いいたします」の意味と使い方にまとめています。
「どうぞ」「どうか」「ぜひ」との違い
似た言葉を、同じ辞書(デジタル大辞泉)で並べます。
| 言葉 | 辞書の語釈 | 辞書が挙げる例 |
|---|---|---|
| 何卒 | 「相手に強く願う気持ちを表す。どうぞ。どうか。」 | 「何卒お許しください」 |
| どうぞ | 1番目:「丁重に頼んだり、心から願ったりする気持ちを表す。どうか。なにとぞ。」 | 「どうぞお許しください」 |
| どうか | 1番目:「心から丁重に頼み込む気持ちを表す。どうぞ。なにとぞ。」 | 「頼むからどうか見逃してくれ」 |
| ぜひ(是非) | 副詞の2番目:「心をこめて、強く願うさま。なにとぞ。」 | 「是非おいでください」 |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
語釈だけを見ると、互いに言い換えとして挙げられています。違いが書かれているのは、「どうか」のページにある用法の欄です。3つの文を、そのまま写します。
- 「「どうか」は無理を承知で頼む意が強い。」
- 「「どうぞ」は勧誘の気持ちが強く、そのことをするかどうかは相手しだいになる。」
- 「「なにとぞ」は、やや古風ないい方だが、丁寧な気持ちは「どうか」「どうぞ」より強い。手紙文などに多く使われる。」
辞書から言えるのは、次の3点です。「どうぞ」は、相手に勧めるときにも使う言葉で、するかどうかを相手に任せる向きがあります。「どうか」は、無理を承知で頼む言葉です。「何卒」は、丁寧な気持ちが3つの中で強く、手紙のような書き言葉で多く使われます。
「ぜひ」は、用法の欄の比べ方に入っていません。「ぜひ」と「何卒」のどちらが丁寧か、を書いた記述は、開いた辞書には見当たりませんでした。分かるのは、「是非」の副詞の1番目に「どんな困難も乗り越えて実行しようとするさま。どうあっても。きっと。」とあり、自分の意志を言うときにも使う言葉だ、という点です。辞書の例の「是非おいでください」は、相手を誘う文です。
ここから先は、決まりではなく、選び方の一例です。展示会への誘いや、試しに使ってもらう提案のように、相手にとっても得になる誘いには「ぜひ」。相手に負担を受け入れてもらうお願いには「何卒」。こう分けると、言葉の意味と場面がそろいます。
文化審議会答申「敬語の指針」(平成19年2月2日・文化庁)は、依頼の言葉遣いの例として、急なお願いであることに「恐縮ですが」と触れたうえで、「どうかお聞き届けください」と頼む形を挙げています(指針53ページ)。お願いを強める言葉が、「恐縮ですが」という前置きと組になっています。
「何卒」が合う場面と、毎回は付けない理由
強く願う言葉なので、強く願う理由がある場面に合います。次の表は一例です。
| 場面 | お願いの中身(例) | 合う理由 |
|---|---|---|
| 無理をお願いする | 急ぎの回答、予定の変更 | 相手が、自分の予定を動かすことになる |
| おわびの後のお願い | こちらの誤りの後で、もう一度確認してもらう | 相手に、二度目の手間をかける |
| 値上げ・条件の変更のお願い | 価格の改定、取引条件の見直し | 相手の費用や社内の手続きが変わる |
| 納期の変更のお願い | 納品日を後ろへずらす | 相手の段取りが変わる |
| あらたまった挨拶状の結び | 多くの相手へ出す案内や通知 | 辞書に「手紙文などに多く使われる」とある |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
反対に、見積書を送る、資料を受け取ったと知らせる、決まっている打ち合わせの日を確かめる、といったふだんの連絡には、強く願う理由がありません。こうした連絡のたびに「何卒」を付けると、相手からは、どのメールも同じ強さのお願いに見えます。本当に無理をお願いしたい一通が、ほかのメールと見分けられなくなります。
付けるかどうかを決める、3つの問い
迷ったら、次の3つを自分に聞きます。公的な決まりではなく、自分で決めるための目安です。
- 相手は、予定・費用・手間のどれかを変えることになるか。変えるなら、相手に負担をかけるお願いです。
- こちらの都合や、こちらの誤りが理由か。相手に原因がないのに動いてもらうなら、強く願う理由があります。
- 断られても仕方がないお願いか。相手に断る理由があるお願いは、辞書の「無理を承知で頼む」に近い場面です。
一つでも当てはまれば、「何卒」が合います。どれにも当てはまらなければ、「よろしくお願いいたします」だけで足ります。
「何卒」だけでは、お願いは伝わらない
「何卒」は、お願いを強める言葉で、お願いの中身は入っていません。強める前に、何をお願いするのか、なぜなのか、相手が困るときはどうするのかを書きます。次の3つは、納期の変更をお願いするメールを比べた、説明用の例です。
- 惜しい例1:「納期が遅れます。何卒よろしくお願い申し上げます。」
- 惜しい例2:「何卒ご確認のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。」
- 良い例:「◯月◯日(◯)の納品を、◯月◯日(◯)に変更させていただけないでしょうか。原因は、こちらの手配の遅れです。ご予定に差し支える場合は、分けて納品する方法もご相談できます。勝手なお願いで申し訳ございませんが、何卒よろしくお願い申し上げます。」
惜しい例1は、いつになるのか、相手は何をすればよいのかが書かれていません。強い言葉だけが残り、相手は「押し切られた」と感じることがあります。惜しい例2は、一文に「何卒」が二度あります。重ねると、読みにくくなります。
良い例は、新しい日付、原因、代わりの方法を先に書き、最後に一度だけ「何卒」を使っています。相手は、受けるか、代わりの方法を選ぶかを、自分で決められます。納期の変更をお願いするメールの全体は、「よろしくお願いいたします」の意味と使い方の例2にあります。
組み合わせの形:ご容赦・ご理解・ご検討
「何卒」の後ろには、「よろしくお願いいたします」のほかに、相手にしてほしいことを表す言葉が続きます。後ろの言葉の意味を、デジタル大辞泉で確かめます。
| 形 | 後ろの言葉の語釈 | 合う場面(一例) |
|---|---|---|
| 何卒ご容赦ください | 容赦の1番目:「ゆるすこと。大目に見ること。」 | こちらの行き届かない点を、許してほしいとき |
| 何卒ご理解ください | 理解の2番目:「他人の気持ちや立場を察すること。」 | こちらの事情を、分かってほしいとき(休業、仕様の変更など) |
| 何卒ご了承ください | 了承:「事情をくんで納得すること。承知すること。承諾。」 | 決まったことを、受け入れてほしいとき |
| 何卒ご検討のほど | 検討:「よく調べ考えること。種々の面から調べて、良いか悪いかを考えること。」 | 提案や見積もりを、考えてほしいとき |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
表の上の3つは、相手に「受け入れてもらう」お願いです。「ご容赦」は許してもらう、「ご理解」は事情を察してもらう、「ご了承」は納得してもらう、という違いがあります。こちらの誤りが原因のときに「ご理解ください」と書くと、「察してほしい」とお願いする文になります。誤りのときは、おわびを先に書き、許しをお願いする「ご容赦」を選ぶと、言葉の意味と合います。「ご容赦」の使い方は、「ご容赦ください」の意味と使い方にまとめています。
いちばん下は、相手に「動いてもらう」お願いです。「のほど」を付けた「ご検討のほど」は、後ろに「よろしくお願いいたします」を続ける形です。「のほど」の働きは、「ご確認のほどよろしくお願いいたします」の意味と使い方にまとめています。相手に力を貸してもらうお願いで使う「お力添え」は、「ご尽力」と「お力添え」の意味と使い方を見てください。
「何卒ご理解ください」「何卒ご了承ください」だけを置くと、理由が分からないまま、受け入れだけを求める文になります。理由と、いつからなのかを先に書きます。次の章の例1が、その形です。
メールの例:値上げのお願いと、おわびの後のお願い
2つの例を並べます。すべて説明用の例です。[ ]は、自分の内容に置き換えます。相手に負担をかけるメールなので、送る前に上司に下書きを見せます。
例1:値上げ(価格の改定)をお願いする
件名:価格改定のお願い([自社名])
A社 佐藤様
いつもお世話になっております。[自社名]の[氏名]です。
本日は、お願いがあり、ご連絡しました。
[理由:会社が決めた説明]のため、◯月◯日(◯)のご注文分から、[商品名]の価格を改定させていただきたく存じます。新しい価格表を添付いたします。
ご不明な点がございましたら、◯月◯日(◯)までにお知らせいただけますでしょうか。あらためて、ご説明に伺います。
ご負担をおかけするお願いで、誠に申し訳ございません。何卒ご理解くださいますよう、お願い申し上げます。
[署名]
何が、いつから変わるのかを先に書き、相手が次にできること(質問する、説明を聞く)を書いてから、「何卒」を使っています。価格の改定は、会社として決めて伝えることです。価格、開始日、理由の書き方は、自分で決めず、上司や会社の通知文に合わせます。
例2:おわびの後で、もう一度お願いする
件名:【お詫び】請求書の金額の誤りについて([自社名])
A社 佐藤様
いつもお世話になっております。[自社名]の[氏名]です。
◯月◯日にお送りした請求書の金額に、誤りがありました。申し訳ございません。
正しい請求書を、このメールに添付いたします。先にお送りしたものは、破棄をお願いいたします。
すでに社内の手続きを進めていただいている場合は、お手数をおかけしますが、添付のものへ差し替えていただけますでしょうか。
こちらの確認が足りず、ご迷惑をおかけしました。何卒よろしくお願い申し上げます。
[署名]
おわび、正しい内容、相手にお願いすること、の順です。相手は、こちらの誤りのために、手続きをやり直すことになります。強く願う理由がある場面です。おわびのメールの順番は、お詫びメールの書き方にまとめています。前置きの「お手数をおかけしますが」は、「お手数をおかけしますが」の意味と使い方を見てください。
迷いやすい判断と、間違えたあと
判断1:「何卒」と漢字で書く?ひらがなで書く?
会社のメールについて、表記を決めた公的な決まりは見当たりません。手がかりとして、国の役所の文書の書き方をまとめた文化審議会建議「公用文作成の考え方」(令和4年1月7日)の解説を見ます。この資料に、「何卒」をどう書くかは、そのままの形では書かれていませんでした。
書かれているのは、漢字の使い方の原則です。解説は、「常用漢字表にない漢字(表外漢字)や漢字が表にあっても採用されていない音訓は、原則として用いない。」としています(解説8ページ・PDFの20枚目)。そして、常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)の本表で「卒」の字を見ると、音訓の欄にあるのは「ソツ」だけで、例は「卒業,卒中,兵卒」です(PDFの101枚目)。「とぞ」という読みは、載っていません。
これは、国の役所の文書についての考え方です。会社のメールを縛る決まりではありません。「何卒」と漢字で書くと誤りだ、とは言い切れません。自分で決めるときは、次の順で考えます。
- 会社に表記の決まりや、文書のひな形があれば、それに合わせる。
- 無ければ、先輩が同じ相手へ送っているメールの書き方に合わせる。
- それも無ければ、読みやすいほうを選ぶ。読み方で相手を迷わせたくないときは、ひらがなで「なにとぞ」と書く。
判断2:「何卒よろしくお願いいたします」と「お願い申し上げます」、どちら?
どちらが上か、を決めた記述は、「敬語の指針」には見当たりませんでした。基準は、メール全体の調子です。本文が「〜いたします」でそろっているなら「お願いいたします」、挨拶状やおわびのように、あらたまった文でそろえているなら「お願い申し上げます」が並べやすくなります。形の違いは、「よろしくお願いいたします」の意味と使い方で説明しています。
判断3:口頭や電話でも、使ってよい?
使ってはいけない、という決まりは見当たりません。ただ、辞書は「なにとぞ」を「やや古風ないい方」「手紙文などに多く使われる」と説明しています。話すときは、「どうか、よろしくお願いいたします」や、「ご無理を申しますが、お願いできますでしょうか」のように言う形もあります(説明用の例です)。
間違えたあと1:ふだんのメールに、毎回付けていたと気づいた
その場では:送ったメールを訂正する必要はありません。相手に害が出る誤りではないからです。次のメールから、「3つの問い」に当てはまるときだけ付けます。
後の記録:「定型文に『何卒』が入っていた。次からは、相手の予定・費用・手間が変わるお願いのときだけ、自分で打つ」と書きます(説明用の例です)。
間違えたあと2:「何卒」と書いたのに、期限や中身を書き忘れた
その場では:相手は、強くお願いされたことは分かっても、何をいつまでにすればよいかが分かりません。気づいたら、すぐに補います。「先ほどのメールで、ご回答の期日を書いておりませんでした。失礼いたしました。◯月◯日(◯)までに、数量をお知らせいただけますでしょうか」のように、足りなかったことを一つ書いて送ります(説明用の例です)。
後の記録:「結びを先に書いて、中身を書き忘れた。次からは、何を・いつまでにの一文を先に書き、結びは最後に打つ」と書きます(説明用の例です)。
今日やることは一つです。これから送るお願いのメールを一通決め、相手の予定・費用・手間の何が変わるのかを書き出して、「何卒」を付けるか付けないかを決めてください。
YOUR TURN
自分の一件で、書いてみよう。
手元に用意するもの
これから送るお願いのメールの下書き。相手の予定や費用に、どんな変更が出るかが分かるメモ。先輩が同じ相手へ送ったメール(あれば)。
記入例を見る(説明用)
相手と、お願いの中身=A社の佐藤様。◯月分から、商品の価格を改定させてほしい、というお願い/相手にかかる負担(予定・費用・手間の何が変わるか)=費用が増える。A社の中で、予算の見直しと、上の方への説明が要るはず。説明に使える資料があるかは未確認。上司に聞く/「何卒」を付けるか、付けないか(理由も)=付ける。相手の費用が変わり、こちらの都合によるお願いだから。結びに一度だけ/結びの一つ前に書く文(何を・いつまでに)=「新しい価格表を添付いたします。ご不明な点がございましたら、◯月◯日(◯)までにお知らせいただけますでしょうか。」/送る前に見せる人と、送る日=課長に下書きを見せる。価格と開始日は、会社の通知文と同じ数字かを確かめる。送る日は、課長と決める。
CHECK
ここまでできたら、次へ。
相手にかかる負担が書いてあり、「何卒」を付けるか付けないかが理由と一緒に決まっていて、結びの一つ前に、何を・いつまでにが一文で書いてある。
うまく進まなかったときは?
負担が大きいのか小さいのか分からなければ、「相手は、予定・費用・手間のどれかを変えることになるか」を自分に聞く。それでも決まらなければ、先輩に「このお願いは、相手にとって負担が大きいでしょうか」と下書きを見せて聞く。結びの前の文が書けなければ、相手にしてほしいことを一つだけ選ぶ。