NOTE 54 · 営業の実践ノート
深耕営業とは:今のお客様の困り事を、もう一段くわしく聞く進め方
公開:2026年10月3日
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深耕営業(しんこうえいぎょう)とは、すでに取引のあるお客様との関係を深め、取引の幅を広げていく営業を指して使われることが多い言葉です。売る物を増やすことから始めるのではなく、今の取引がどう使われているかを確かめ、まだ聞けていない困り事を一つ聞くところから始めます。
この記事の目次 読みたいところへ ↓
こんなときに 「今のお客様を深耕して」と言われたが、何から始めればよいか分からないとき。
- 1
今の取引を、何を・どの部署に・どの用途で、と書き出す
- 2
使われ方を確かめ、まだ聞けていない部署や用途を書く
- 3
困り事を一つ聞き、小さな提案を一つする
- 4
聞いたことと、次にやることを記録する
会話・記入例は、説明用の例です。自分の案件の条件へ置き換えて使ってください。
深耕営業とは:取引のあるお客様との関係を深める営業
深耕営業は、「しんこうえいぎょう」と読みます。すでに取引のあるお客様との関係を深め、取引の幅を広げていく営業を指して使われることが多い言葉です。「深耕」は、もともと、田畑を深く耕すことを言う言葉です。新しい畑を探すのではなく、今ある畑を深く耕す、というたとえで使われています。
決まった定義があるわけではなく、会社によって指す範囲が違います。同じお客様に別の商品も使ってもらうこと、ほかの部署にも使ってもらうこと、注文の量を増やしてもらうこと、などを指して使われます。上司から「深耕して」と言われたら、「何を増やすことを指していますか」と聞いて確かめます。
初めてこの言葉を聞くと、「今のお客様に、もっと売り込むこと」だと受け取りがちです。けれども、いきなり別の商品をすすめると、相手は「今度は何を売りに来たのか」と身がまえます。この記事では、売り込みから始めず、今の取引の使われ方を確かめ、まだ聞けていない困り事を一つ聞くところから始める進め方を説明します。
ルート営業・新規開拓との違い
似た言葉に、ルート営業と新規開拓があります。次のように使い分けられることが多い言葉です。会社によって違うので、目安として見てください。
| 比べる点 | 深耕営業 | ルート営業 | 新規開拓 |
|---|---|---|---|
| 相手 | すでに取引のあるお客様 | すでに取引のあるお客様 | まだ取引のない会社や店 |
| 何を指す言葉か | 取引を深め、広げていく進め方 | 決まった間隔で訪問する、仕事の形 | 新しい取引先を作る活動 |
| 中心になる動き | 使われ方を確かめ、聞けていない困り事を聞く | 前回の約束、注文、次の予定を確かめる | 自分の会社と用件を知ってもらう |
| つまずきやすい点 | 売り込みに聞こえてしまう | 訪問が習慣になり、聞くことが決まっていない | 断られることが続く |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
ルート営業は「訪問の形」の呼び名で、深耕営業は「進め方」の呼び名です。そのため、2つは重なります。ルート営業でいつもの訪問をしながら、そのうちの一社で深耕を進める、という形もあります。訪問ごとに確かめることはルート営業とはに、呼び名どうしの関係は営業の種類にまとめています。
困り事を聞いてから提案を組み立てる進め方は、「ソリューション営業」と呼ばれることがあります。提案の組み立て方はソリューション営業とはにまとめています。この記事では、その手前の、取引のあるお客様の中で、まだ聞けていない所を見つけて聞く部分を取り上げます。
進め方:今の取引を書き出してから、記録するまでの6つの手順
深耕は、お客様一社を選んで、次の順番で進めます。
- 今の取引を書き出す。何を、どの部署に、どの用途で、どれくらいの間隔で納めているかを書きます。窓口の人の名前も書きます。書いてみると、「納めてはいるが、誰がどう使っているかは知らない」という所が見えてきます。
- 使われ方を確かめる。次の訪問で、「お納めしている◯◯は、どなたが、どんな場面でお使いですか」と聞きます。許しをもらえたら、置き場所や使っている所を見せてもらいます。使われ方を知らないままの提案は、相手の仕事に合わないことがあるからです。
- まだ聞けていない部署・用途を書く。聞いた話から、「まだ会っていない人」「まだ知らない使い方」を書き出します。同じ商品を使っているほかの部署、似た作業をしている別の現場、などです。
- 一つ聞く。書き出した中から一つだけ選び、質問を一つ決めて行きます。一度にいくつも聞くと、相手は調べられているように感じます。一つなら、雑談の続きとして答えてもらえます。
- 小さく提案する。困り事が聞けたら、すぐに大きな提案をせず、小さなことを一つ申し出ます。見本を持ってくる、納品の曜日を変える案を出す、資料を一枚作る、などです。その場で約束できないことは、「社内で確認して、◯日までにお返事します」と持ち帰ります。
- 記録する。誰が、何と言ったかを、相手の言葉のまま書きます。自分の推測は分けて書きます。次にやることと期限も書きます。
手順1の書き出しは、次のような表にすると見やすくなります。
| 納めている物 | 部署・窓口 | 用途 | 使われ方で分かっていること | まだ聞けていないこと |
|---|---|---|---|---|
| コピー用紙 | 総務課・山田様 | 事務所の印刷 | 総務課の棚に置き、ほかの課の人が取りに来る。月末に足りなくなることがある | どの課が多く使うか。倉庫の伝票の印刷には、何を使っているか |
| 封筒 | 総務課・山田様 | 請求書の発送 | 未確認 | 誰が発送の作業をしているか |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
会社・商品・内容は説明用の例です。「未確認」と書いた所が、次に聞くことの候補になります。分からない所があるのは、悪いことではありません。分からないと分かっていれば、聞けます。
書き出す先は、会社の顧客管理の仕組みがあれば、それを使います。手元で考えを整理するだけなら、いつものメモ帳で足ります。表を書くことが多いなら、マス目のある方眼のノートを使うと、線を引かずに列をそろえられます。
困り事が聞けた後、社内やメーカーへどう伝えるかは、顧客の困り事から、メーカーと改善を考えるにまとめています。
場面で変わるところ
6つの手順は同じですが、会える相手と、付き合いの長さで、進め方が変わります。次の表は一例です。
| 場面 | 力を入れる所 | 進め方(一例) |
|---|---|---|
| 会えるのが、窓口の担当者だけ | 窓口の人から、使う人の様子を聞く | 「お使いの方から、何か声は届いていますか」と聞く。使う人に会いたいときは、窓口の人に先に相談する |
| 使っている現場の人に会える | 使う場面を、見て聞く | 「どの作業のときに、お使いですか」と聞く。聞いたことは、窓口の人にも伝える |
| 決める人に会える | 相手の会社が、これから力を入れること | 時間をもらった礼を言い、「今後、力を入れていかれることは何ですか」と一つ聞く。商品の話は、聞かれてからにする |
| 担当を引き継いだばかり | 今の取引を正しく知る | 引き継ぎメモと納品の控えを読み、手順1と2だけを進める。提案は、使われ方が分かってからにする |
| 長い付き合いがある | 「知っているつもり」の所を確かめ直す | 「改めて教えてください」と前置きして、使われ方を聞き直す。担当者や作業が変わっていることがある |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
窓口の人を通さずに話を進めると、窓口の人は「自分の知らない所で話が進んでいる」と感じます。ほかの人に会ったときは、会ったことと聞いた内容を、窓口の人に伝えます。
引き継いだばかりのときは、早く成果を出そうとして、提案を急ぎがちです。けれども相手から見ると、まだ顔も覚えていない担当者です。まず、前任者との約束が続いていることを伝え、今の取引を正しく知ることから始めます。
言い方の例:売り込みに聞こえる言い方と、困り事から聞く言い方
深耕の質問は、言い方しだいで売り込みに聞こえます。次の表は、惜しい言い方と良い言い方を並べた例です。
| 場面 | 惜しい言い方 | 良い言い方 | 違い |
|---|---|---|---|
| 使われ方を聞く | 「ほかにも、うちの商品を使いませんか」 | 「お納めしている◯◯は、どんな場面でお使いですか」 | すすめる前に、今の様子を聞いている |
| ほかの部署のことを聞く | 「ほかの部署の方を、紹介してください」 | 「◯◯は、ほかの課の方もお使いですか。お困りの声があれば、教えてください」 | 紹介を求めず、窓口の人が答えられることを聞いている |
| 困り事を聞く | 「何かお困り事はありませんか」 | 「月末に足りなくなるとき、どのように対応されていますか」 | 場面をしぼっているので、相手が思い出しやすい |
| 提案する | 「こちらの新商品が、おすすめです」 | 「先ほどの件で、見本を一つお持ちしてもよろしいですか」 | 相手が言った困り事に、小さく応えている |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
惜しい言い方に共通するのは、こちらが売りたい物から話が始まっていることです。良い言い方は、相手の今の仕事から始まっています。「何かお困り事はありませんか」は、ていねいですが、広すぎて「特にないよ」と返されやすい聞き方です。場面を一つにしぼると、相手は答えやすくなります。
自分:「いつもお納めしているコピー用紙ですが、どなたが、どんな場面でお使いですか」
相手:「うちの課の棚に置いて、ほかの課の人が取りに来るんだよ。月末は足りなくなることがあってね」
自分:「月末に足りなくなるのですね。そのときは、どのように対応されていますか」
相手:「近くの店に、買いに走ってるよ」
自分:「買いに行かれているのですね。月末の前に一度、納品を足す形ができるか、社内で確認して、金曜までにお電話してもよろしいですか」
相手:「そうしてもらえると助かるな」
会社・商品・やり取りは説明用の例です。使われ方を聞き、困り事を一つ聞き、小さな提案を、期限を付けて持ち帰っています。新しい商品はすすめていません。聞いた後の質問の重ね方は、商談ヒアリングにまとめています。
迷いやすい判断と、失敗のあと
判断1:窓口以外の人に、会ってよい?
基準は、窓口の人が知っている状態で会うことです。会いたい理由を窓口の人に伝え、「お使いの方に、使い勝手を直接伺ってもよろしいですか」と聞きます。「私から聞いておくよ」と言われたら、それに従い、聞いてほしいことを一つだけお願いします。
現場でたまたま声をかけられた場合は、話を聞いて構いません。その後、「先ほど、◯◯の方からこのようなお話を伺いました」と、窓口の人に伝えます。
判断2:ほかの会社の製品を使っていると分かったら?
その製品を悪く言いません。相手が自分で選んで使っている物だからです。基準は、相手が困っているかどうかです。「お使いになっていて、手間に感じる所はありますか」と一つ聞きます。困っていなければ、「使っている」という事実だけを記録して、話を終えます。
困り事があり、相手から「そちらで扱っているのか」と聞かれたら、そこで初めて資料を出します。ほかの会社との取引の中身(価格や契約の条件)を、こちらから聞き出そうとはしません。
判断3:頼まれていない提案を、してよい?
基準は、相手が言った困り事につながっているかです。つながっていれば、「先日伺った◯◯の件で、一つ案があります。お聞きいただけますか」と、聞いてよいかを先に確かめます。つながっていない提案は、売り込みに聞こえます。先に、使われ方と困り事を聞く所へ戻ります。
提案の中身は、自分で約束できる範囲かを見ます。価格、納期、特別な対応は、上司に確かめてから伝えます。上司には、「お客様がこう言っていました。この案を出してよいですか」と、相手の言葉を添えて聞きます。提案を書面にするときは、提案書の作り方を見てください。
判断4:どのお客様から始める?
担当が何社もあるときは、一社にしぼります。基準は、今の取引の使われ方を、自分がどれだけ知らないかと、窓口の人に質問しやすい関係があるかの2つです。手順1の表を書いてみて、「未確認」が多く、次の訪問日が決まっている一社から始めます。迷ったら、先輩に表を見せて、「この中で、先に聞いておくべき所はどこですか」と聞きます。
失敗1:売り込みと受け取られ、相手の返事が短くなった
その場では:商品の話を止めます。「失礼しました。今日は、今お使いいただいている物の様子を伺いに来ました」と言い直し、使われ方の質問に戻ります。その日は、提案をしないで帰ります。
後の記録:どの言葉の後で、相手の返事が変わったかを書きます。次の訪問で聞く質問を、場面を一つにしぼった形に書き直します。
失敗2:窓口の人を通さずに、ほかの部署と話を進めてしまった
その場では:気づいた時点で、窓口の人に自分から伝えます。「ご報告が遅れました。先日、◯◯課の方から、このようなお話を伺いました」と、会った日と聞いた内容を話します。相手に聞かれる前に言うほうが、信頼を保ちやすくなります。
後の記録:誰に、いつ、何を伝えたかを書きます。次からは、「ほかの人と話したら、その日のうちに窓口の人へ伝える」と、自分の手順に足します。
失敗3:その場で「できます」と言い、後でできないと分かった
その場では:分かった時点ですぐに連絡し、おわびと、代わりにできることを伝えます。上司にも報告します。報告の順番は営業で失敗したときにまとめています。
後の記録:何を約束し、なぜできなかったかを書きます。次からは、自分で決められないことを「確認して、◯日までにお返事します」と持ち帰ります。
今日やることは一つです。お客様一社の今の取引を書き出し、「未確認」の所から、次の訪問で聞く質問を一つ決めてください。
YOUR TURN
自分の一件で、書いてみよう。
手元に用意するもの
お客様一社の取引の記録(納品や注文の控え)、これまでの訪問メモ、相手の名刺。
記入例を見る(説明用)
今の取引=D社の総務課に、コピー用紙を月に一度、納品している。窓口は総務の山田様。用途は、事務所の印刷/使われ方で確かめたこと=納品した紙は、総務課の棚に置かれ、ほかの課の人が取りに来ている(山田様の話)。月末に足りなくなることがある、とのこと/まだ聞けていない部署・用途=紙を使っている、ほかの課。倉庫でも伝票を印刷していると聞いたが、何を使っているかは未確認/次の訪問で聞く、一つの質問=「月末に足りなくなるとき、どの課で、どのように困っていらっしゃいますか」/聞いた結果と、次にやること=未記入(訪問の後に書く)。聞けた場合は、納品の回数を変える案を、上司に相談してから山田様へ伝える。(会社・商品・やり取りは説明用の例)
CHECK
ここまでできたら、次へ。
今の取引が、何を・どの部署に・どの用途で、と書いてあり、まだ聞けていない所が一つ書かれ、次の訪問で聞く質問が、相手に言える形の一文になっている。
うまく進まなかったときは?
今の取引が書けなければ、納品や注文の控えを見るか、先輩に聞く。聞けていない所が思いつかなければ、窓口の人に「この商品は、ほかにどなたが使っていらっしゃいますか」と聞く。質問が決まらなければ、「お使いになっていて、手間に感じる所はありますか」から始める。