NOTE 77 · 営業の実践ノート
尊敬語と謙譲語の違い:誰の動作かで決める、営業でよく使う動詞の対応表
公開:2026年10月3日
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尊敬語は、相手や話題の人の動作を、その人を立てて言う言葉です。謙譲語は、自分や自分の側の動作を言うときに使う言葉です。迷ったら、「その動作をするのは誰か」を先に確かめます。相手がするなら尊敬語、自分や自社の人がするなら謙譲語、が出発点です。この記事では、文化庁の「敬語の指針」に載っている形をもとに、営業でよく使う動詞の対応表と、場面ごとの例をまとめます。
この記事の目次 読みたいところへ ↓
こんなときに 訪問・電話・メールで、「伺う」と「いらっしゃる」のどちらを使うのか、とっさに出てこないとき。
- 1
その動作をするのは誰かを確かめる
- 2
相手側の動作なら、尊敬語の形にする
- 3
自分側の動作なら、謙譲語の形にする
- 4
自社の人を社外の人に話すときは、立てない形に直す
会話・記入例は、説明用の例です。自分の案件の条件へ置き換えて使ってください。
尊敬語と謙譲語の違い:誰の動作かで決める
取引先に「明日、何時に伺いますか」と聞いてしまった。電話で「田中部長は、ただいまいらっしゃいません」と答えてしまった。どちらも、敬語を使おうとして、尊敬語と謙譲語が入れ替わった例です。
敬語の種類と使い方は、文化審議会答申「敬語の指針」(平成19年2月2日・文化庁)にまとめられています。この記事の説明は、この指針に書かれていることを根拠にしています。「 」の中にページ数を付けた文は、指針の文をそのまま写したものです。指針は、敬語を次の5種類に分けています(指針13ページ)。
| 種類 | 指針の説明 | 指針が挙げている例 |
|---|---|---|
| 尊敬語 | 「相手側又は第三者の行為・ものごと・状態などについて,その人物を立てて述べるもの。」(14ページ) | いらっしゃる、おっしゃる |
| 謙譲語Ⅰ | 「自分側から相手側又は第三者に向かう行為・ものごとなどについて,その向かう先の人物を立てて述べるもの。」(15ページ) | 伺う、申し上げる |
| 謙譲語Ⅱ(丁重語) | 「自分側の行為・ものごとなどを,話や文章の相手に対して丁重に述べるもの。」(18ページ) | 参る、申す |
| 丁寧語 | 「話や文章の相手に対して丁寧に述べるもの。」(20ページ) | です、ます |
| 美化語 | 「ものごとを,美化して述べるもの。」(21ページ) | お酒、お料理 |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
「立てる」とは、指針の言葉で、その人を言葉の上で高く位置付けて述べることです(指針14ページ)。
営業の場面に置き換えると、こうなります。
- 尊敬語:お客様や取引先の人の動作に使う。「部長は、何時にいらっしゃいますか」
- 謙譲語:自分や自社の人の動作に使う。「14時に伺います」「田中が申しておりました」
迷ったときに確かめることは一つです。その動作をするのは、誰か。相手側なら尊敬語、自分側なら謙譲語、が出発点です。入れ替わると、自分を立てたり、相手を自分の側の人のように扱ったりする文になります。冒頭の「何時に伺いますか」は、来るのは相手なので、「何時にいらっしゃいますか」に直します。
営業でよく使う動詞の対応表
次の表は、指針の「敬語の形」の章(24〜28ページ)に載っている形を並べたものです。指針は「御覧」「御存じ」と漢字で書いていますが、ここでは「ご覧」「ご存じ」と書きます。「—」は、指針の例に載っていない所です。
| ふつうの言い方 | 尊敬語(相手側の動作) | 謙譲語Ⅰ(向かう先の人を立てる) | 謙譲語Ⅱ(相手に丁重に述べる) |
|---|---|---|---|
| 行く | いらっしゃる、おいでになる | 伺う | 参る |
| 来る | いらっしゃる、見える、おいでになる | — | 参る |
| 言う | おっしゃる | 申し上げる | 申す |
| 見る | ご覧になる | 拝見する | — |
| 聞く | お聞きになる | 伺う、お聞きする | — |
| 食べる | 召し上がる | — | — |
| いる | いらっしゃる、おいでになる | — | おる |
| する | なさる | — | いたす |
| もらう | — | いただく | — |
| 知っている | ご存じだ(ご存じです) | 存じ上げている | 存じている(存じております) |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
表の読み方を補います。
- 「聞く」の尊敬語は、指針が示す一般の形「お(ご)……になる」(24ページ)に当てはめた形です。指針37ページには、客に言う形として「お聞きください」「お尋ねください」が載っています。
- 「食べる」の謙譲語は、指針の例にはありません。デジタル大辞泉「頂く」は、「いただく」を「「食う」「飲む」の謙譲語。」と説明しています。「昼食は、もういただきました」のように使います(説明用の例です)。
- 表に無い動詞は、相手側の動作なら「お(ご)……になる」(読む→お読みになる、利用する→ご利用になる)、自分側から相手に向かう動作なら「お(ご)……する」(届ける→お届けする、案内する→ご案内する)の形で作れます(24・26ページ)。
全部を一度に覚えなくても足ります。営業で出番が多いのは、「行く・来る」「言う」「見る」「聞く」の四つです。まず、この四つの行を声に出して読みます。
「伺う」と「参る」の違い:謙譲語は二つある
表の謙譲語が二列に分かれているのは、働きが違うからです。指針は、こう書いています。「謙譲語Ⅰは<向かう先>(上述のように,相手側である場合も,第三者である場合もある)に対する敬語,謙譲語Ⅱは<相手>に対する敬語であり,性質が異なる。」(19ページ)
かみくだくと、次の違いです。
- 伺う(謙譲語Ⅰ):行く先・聞く先の人を立てる。立てる相手がいるときに使う。
- 参る(謙譲語Ⅱ):今、話している相手に、自分の動作を丁重に述べる。行く先が誰でも使える。
指針は、「先生のところに伺います」とは言えるが、「弟のところに伺います」は不自然だ、と説明しています。弟は、立てるのにふさわしい相手ではないからです。「弟のところに参ります」は、問題のない使い方とされています(19・38〜39ページ)。
営業の場面に当てはめると、次のようになります(説明用の例です)。
- 取引先へ行く:「明日の14時に、御社へ伺います」(行く先の相手を立てる)
- 出張で別の場所へ行く、と取引先に話す:「来週は、大阪へ参ります」(大阪は立てる相手ではない。話している相手に丁重に述べる)
- 自社の倉庫へ行く、と取引先に話す:「これから倉庫へ参ります」(自社の倉庫に「伺います」は合わない)
行く先が、今話している相手自身のときは、「伺います」「参ります」のどちらも使えます(指針19ページ)。迷うのは、行く先が相手ではないときです。そのときは、「行く先は、立てる相手か」を確かめます。
もう一つ、謙譲語Ⅱは自分側の動作に使う言葉です。指針は、「(あなたは)どちらから参りましたか」のように相手側の動作に使うのは不適切だ、としています(18ページ)。お客様が来たことを社内に伝えるときは、「A社の佐藤様がいらっしゃいました」です。
訪問・電話・メールでの例
場面ごとに、入れ替わりやすい所を並べます。例文は、すべて説明用の例です。
| 場面 | 惜しい例 | 良い例 | 直す理由 |
|---|---|---|---|
| 訪問の日時を聞く | 何時に伺いますか(相手が来る) | 何時にいらっしゃいますか | 来るのは相手。尊敬語にする |
| 訪問を申し出る | 明日、行きます | 明日、伺います | 行くのは自分。行く先の相手を立てる |
| 受付で案内する | 担当の者に伺ってください | 担当の者にお聞きください | 聞くのは相手。「伺う」は自分側の言葉 |
| 電話で不在を伝える | 田中部長は、いらっしゃいません | 田中は、席を外しております | 社外の人には、自社の人を立てない |
| メールで資料を案内する | 資料を拝見してください | 資料をご覧ください | 見るのは相手。「拝見する」は自分側の言葉 |
| メールで受け取りを伝える | 資料を見ました | 資料を拝見しました | 見るのは自分。送ってくれた相手を立てる |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
受付の例は、指針が取り上げているものです。「担当者に伺ってください」について、指針は「伺う」は謙譲語Ⅰで、客の動作に用いる敬語ではない、と説明し、こう続けています。「客を立てるためには,尊敬語を用いる必要がある。」(37ページ)。直した形として、「お聞きください」「お尋ねください」を挙げています。
指針には、もう一つ、職場の例があります。課長が持っていくかどうかを聞きたくて、「課長、そのファイルも会議室にお持ちしますか」と尋ねたら、「うん、よろしく頼むよ」と言われた、という例です。「お持ちする」は謙譲語Ⅰなので、自分が持っていくと申し出た意味になります。相手の動作を聞くなら、「お持ちになりますか」です(指針37ページ)。
「お(ご)……する」は自分の動作、「お(ご)……になる」は相手の動作。この一組を覚えておくと、表に無い動詞でも直せます。
電話の受け方の手順は電話対応の基本に、メール全体の組み立てはビジネスメールの書き方にまとめています。
迷いやすい判断
判断1:社外の人に、自社の上司のことをどう言う?
尊敬語と謙譲語Ⅰを使うときの留意点として、指針は最初に「自分側は立てない。」(22ページ)を挙げています。自分側には、自分だけでなく、自分にとって「ウチ」に当たる人も含まれます。取引先と話すときは、自社の上司も自分側です。
指針は、取引先の社員に田中部長のことを話す例を取り上げています(44ページ)。「田中」と呼ぶことに問題はなく、「部長の田中」という言い方もできる。「田中部長」は、自分側として扱った呼び方にならないので不適切、という説明です。呼び捨てに抵抗がある、という声には、こう答えています。「飽くまでも「ウチ・ソト」の関係でとらえた表現なのであって,田中部長を呼び捨てにすることとは全く異なる。」
動作の言葉も同じです。「田中が申しておりました」「田中が伺います」と、謙譲語にします。社外の人が多い会で社長を紹介する場面について、指針は「「ウチ」の社長は立てない方が良い。」(45ページ)と書いています。
社内で上司本人と話すときは、上司は立てる相手です。「部長は、何時にいらっしゃいますか」と尊敬語を使います。話す相手が社内か社外かで、同じ上司の扱いが変わります。
判断2:二重敬語は、使ってはいけない?
指針の説明は、こうです。「一つの語について,同じ種類の敬語を二重に使ったものを「二重敬語」という。」例として、「お読みになられる」が挙げられています。「お読みになる」で尊敬語になっているのに、さらに尊敬語の「……れる」を加えた形です(30ページ)。
扱いについては、「「二重敬語」は,一般に適切ではないとされている。ただし,語によっては,習慣として定着しているものもある。」(30ページ)とあります。定着している例として、尊敬語の「お召し上がりになる」「お見えになる」、謙譲語Ⅰの「お伺いする」「お伺いいたす」「お伺い申し上げる」が挙げられています。
自分で決める基準は、敬語の形を一つにすることです。「お読みになる」か「読まれる」のどちらか一つで足ります。「お伺いします」は、指針が定着した例に挙げているので、使ってかまいません。
「お読みになっていらっしゃる」のように、二つの言葉をそれぞれ敬語にして「て」でつないだ形は、指針では二重敬語ではなく「敬語連結」と呼ばれ、基本的に許容されるとされています(30ページ)。
判断3:「させていただく」は、使いすぎ?
指針は、「(お・ご)……(さ)せていただく」の形について、基本的には自分側が行うことを、「ア)相手側又は第三者の許可を受けて行い,イ)そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合に使われる。」と説明しています(40ページ)。相手の許可と、自分が受ける恩恵。この二つがそろうかどうかで、合う場面と、あまり合わない場面が分かれます。
指針の例では、相手の本をコピーしたいときの「コピーを取らせていただけますか」は、二つの条件を満たします。発表の冒頭の「発表させていただきます」は、許可を受ける条件が無い場合には、やや冗長になり、「発表いたします」のほうが簡潔に感じられる、とされています(40〜41ページ)。
営業の文に当てはめると、次のように選べます(説明用の例です)。
- 相手の許可が要ること:「資料を、社内で共有させていただいてもよろしいでしょうか」
- 自分の判断ですること:「資料をお送りいたします」「ご説明いたします」
一通のメールに「させていただきます」が続いていたら、相手の許可が要るものだけを残し、ほかは「いたします」に直します。
判断4:「ご利用される」「ご利用できます」は、正しい?
相手の動作に使うなら、指針が適切な形として挙げているのは、「利用される」「利用なさる」「ご利用になる」「ご利用なさる」です。「ご利用される」は、規範的には適切な敬語とは位置付けられてこなかった形、と説明されています(36ページ)。
「お(ご)……できる」は、謙譲語Ⅰ「お(ご)……する」の可能の形です。指針は、駅の「御乗車できません」を例に、相手の動作には「御乗車になれません」が適切で、「御乗車いただけません」も可能、としています(36ページ)。お客様に案内するなら、「ご利用になれます」「ご利用いただけます」を選びます。
言い間違えたとき
場面1:話している途中で、入れ替わりに気づいた
その場では:短く言い直して、話を続けます。「何時に伺い……失礼しました、何時にいらっしゃいますか」で足ります(説明用の例です)。長く謝ると、用件が止まります。相手は、言い直した後の文で用件が分かります。
後の記録:間違えた文と、直した文を、並べて書きます。「相手が来る→いらっしゃる。自分が行く→伺う」のように、誰の動作かを添えます。
場面2:送ったメールの敬語が、間違っていた
その場では:日付・金額・名前に誤りがなければ、敬語を直すためだけのメールは、送らなくて足ります。相手に、もう一通読んでもらうことになるからです。次のメールから直します。相手の名前や会社名を間違えたときは、別の話です。お詫びメールの書き方を見て、上司に報告してから訂正します。
後の記録:よく使う文を、直した形で一つ保存します。「資料を拝見しました」「資料をご覧ください」の二つを並べておくと、次に写せます。
場面3:電話で、「田中部長は」と言ってしまった
その場では:そのまま用件を続け、次の文から「田中は」に変えます。不在を伝える、折り返しの時刻を聞く、という用件のほうを先に済ませます。
後の記録:電話の近くに、「社外には:部長の田中/田中は、席を外しております」と書いたメモを置きます(説明用の例です)。とっさに出る言葉は、目に入る所に書いてあると直しやすくなります。
指針は、敬語について、相手を尊重する気持ちを基本として使うことが大切だ、という考え方を示しています(33ページ)。形を一つ間違えても、相手を尊重して話していることは、ほかの言葉や動きからも伝わります。間違えたら直す。その繰り返しで身に付けていきます。
依頼への返事で「了解しました」を使ってよいかは、「了解しました」は敬語?に分けて書きました。
今日やることは一つです。今日使う一文を選び、「誰の動作か」を書いてから、対応表で言葉を確かめてください。
YOUR TURN
自分の一件で、書いてみよう。
手元に用意するもの
今日送る予定のメールの下書き、または電話や訪問で言うつもりの一文。自分の会社で、上司を社外の人にどう呼んでいるかが分かるもの(先輩のメールなど)。
記入例を見る(説明用)
直したい一文=「来週、部長の田中様がそちらにいらっしゃいます」/その動作をするのは誰か=行くのは田中部長。自分の会社の人なので、自分側/対応表で確かめた言葉=行く→伺う(向かう先の相手を立てる)。自分側の人には尊敬語の「いらっしゃる」を使わない/直した後の一文=「来週、部長の田中が、御社に伺います」/社外の人に、自社の上司をどう呼ぶか=「部長の田中」と呼ぶ。先輩のメールも同じ書き方だった。電話でとっさに「田中部長は」と言ってしまうので、受話器の横にメモを貼る。
CHECK
ここまでできたら、次へ。
直したい一文について、誰の動作かが書いてあり、対応表で言葉を確かめて、直した後の一文が書いてある。
うまく進まなかったときは?
誰の動作か分からなければ、文に「誰が」を足して読み直す。対応表に無い動詞なら、相手の動作は「お(ご)……になる」、自分の動作は「お(ご)……する」に当てはめてみる。自社の上司の呼び方が分からなければ、先輩に「取引先には、部長のことを何と呼んでいますか」と聞く。