NOTE 92 · 営業の実践ノート
「恐れ入りますが」の意味と使い方:「恐縮ですが」「お手数ですが」との違いと、電話・メールの例
公開:2026年10月3日
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「恐れ入りますが」は、相手に何かを頼んだり尋ねたりする前に置く、あいさつの言葉です。辞書には、「恐れ入りますが」の形で、ものを頼んだり尋ねたりするときのあいさつとして用いる、と書かれています。置くのは、一つのお願いに一つで足ります。大事なのは、その後に続く「何を・いつまでに」をはっきり書くことです。
この記事の目次 読みたいところへ ↓
こんなときに 取引先に頼みごとをするメールや電話で、前に置く言葉を選べず手が止まるとき。
- 1
お願いの中身(何を・いつまでに)を先に書く
- 2
相手にかかる負担が何かを考える
- 3
前に置く言葉を一つ選ぶ
- 4
同じ言葉が重なっていないかを読み返す
会話・記入例は、説明用の例です。自分の案件の条件へ置き換えて使ってください。
「恐れ入りますが」の意味:辞書で確かめる
取引先に資料の送付をお願いするメールを書く。「恐れ入りますが」と書き出して、次の文も「恐れ入りますが」になり、「恐縮ですが」に変えてみる。どれが合っているのか分からなくなる。営業を始めたばかりの時期に、起きやすい迷いです。
先に、言葉の意味を辞書で確かめます。コトバンクに載っている二つの辞書で「恐れ入る」を引きました。「 」の中は、辞書の文をそのまま写したものです。
- 「相手の好意などに対して、ありがたいと思う。恐縮する。」(デジタル大辞泉「恐れ入る」の1番目)
- 「相手に失礼したり、迷惑をかけたりしたことに対して、申し訳なく思う。「恐れ入りますが」の形で、ものを頼んだり尋ねたりするときなどのあいさつの言葉としても用いる。恐縮する。」(デジタル大辞泉の2番目)
- 「目上の人などに失礼なことをして、おそれおおいと思う。やや形式的なあいさつの言葉としても用いる。」(精選版 日本国語大辞典の3番目)
語釈から分かることは三つあります。
- 「恐れ入ります」には、お礼の意味と、申し訳なく思う意味の両方がある。お茶を出してもらったときの「恐れ入ります」は、1番目の意味です。
- 「恐れ入りますが」は、頼んだり尋ねたりするときのあいさつとして使う形だと、辞書に書かれている。この記事で扱うのは、この使い方です。
- あいさつの言葉として、やや形式的に使われる。深いおわびというより、お願いの前に置く決まった一言、という位置づけです。
辞書には、「あきれる」「相手の力量に感心する」という意味も載っています。仕事のお願いで使うのは、上の2番目の意味です。
頼みごとの前に置く理由と、「お忙しいところ」の形
なぜ、お願いの前に一言置くのでしょうか。文化審議会答申「敬語の指針」(平成19年2月2日・文化庁)に、手がかりがあります。同僚から前置きなしに「これ,お願いします。」と書類を置いていかれた、という例について、指針は、何かを頼むということは「相手には負担の掛かることだと考えられる。」と説明しています(指針49ページ)。
そのうえで、「すみませんが」や「忙しいところ申し訳ないけど」を前置きの表現の例に挙げ、こうした「表現があるだけで,随分印象が違ってくる。」と書いています(指針49ページ)。お願いの前の一言は、「あなたに負担をかけると分かっています」と伝える役目をしています。
「恐れ入りますが」は、その前置きの一つです。文の中では、次の順に並べます。
- 前に置く言葉。「恐れ入りますが、」
- 何を。「納品先のご住所を、」
- いつまでに。「◯月◯日(金)までに」
- お願いの形。「お知らせいただけますでしょうか。」
相手が動くために要るのは、2番目と3番目です。1番目が丁寧でも、何を・いつまでにが抜けていると、相手は聞き返すことになります。
「お忙しいところ恐れ入りますが」「ご多忙のところ恐れ入りますが」
「恐れ入りますが」の前に、相手の状況を一言足す形です。指針は「おわりに」で、依頼の言葉遣いの例として「お忙しいところ,急なお願いを申しまして恐縮ですが,どうかお聞き届けください。」を挙げています(指針53ページ)。相手が忙しい中で時間を使ってくれることに、先にふれる言い方です。
「お忙しい」は、指針で尊敬語の例に挙げられている言葉です(指針14ページ)。「ご多忙」の「多忙」は、辞書では「非常に忙しいこと。また、そのさま。」(デジタル大辞泉「多忙」)です。指針は、「お」と「御」の使い分けについて、「お+和語」「御+漢語」が原則だと説明しています(指針29ページ)。「お忙しい」は和語に「お」、「ご多忙」は漢語に「ご」が付いた形です。
二つのどちらが上か、どちらが正しいか、という決まりは見当たりません。自分で決める基準は、声に出して言いやすいか、文面の硬さに合うかです。電話なら「お忙しいところ恐れ入りますが」、改まった文書なら「ご多忙のところ恐れ入りますが」と使い分ける人もいます。職場に決まった言い方があれば、そちらに合わせます。
気をつけたいのは、毎回付けると、決まり文句として読み飛ばされることです。相手の時間を取るお願い、急ぎのお願い、初めての相手へのお願い、というふうに、場面を選んで使います。
似た言葉との違い:恐縮ですが・申し訳ございませんが・お手数ですが
お願いの前に置く言葉は、ほかにもあります。四つの言葉を、辞書の語釈で比べます。
| 言葉 | 辞書の語釈 | 語釈から言えること | 合う場面(一例) |
|---|---|---|---|
| 恐れ入りますが | 「「恐れ入りますが」の形で、ものを頼んだり尋ねたりするときなどのあいさつの言葉としても用いる。」(デジタル大辞泉「恐れ入る」の2番目) | 頼む・尋ねるときのあいさつ。電話でも文面でも使える | 電話での取り次ぎ、名前や連絡先を尋ねる、ふつうのお願い |
| 恐縮ですが | 「相手に迷惑をかけたり、相手の厚意を受けたりして申し訳なく思うこと。おそれいること。また、そのさま。」(デジタル大辞泉「恐縮」の2番目) | 意味は「恐れ入る」とほぼ重なる。漢語なので、文面で硬めに聞こえる | メールや文書でのお願い。相手の厚意に甘えるお願い |
| 申し訳ございませんが | 「言い訳のしようがない。弁解の余地がない。相手にわびるときに言う語。」「相手に無理な依頼ごとをして、すまないという気持ちを表す語。」(デジタル大辞泉「申訳無い」の1・2番目) | わびる言葉。無理な依頼にも使う | こちらの都合や落ち度で、相手に負担をかけるお願い。断るとき |
| お手数ですが | 「他人のためにことさらにかける手間。てかず。」(デジタル大辞泉「手数」の2番目) | 相手にかける「手間」を指す言葉 | 記入、返送、確認、再送など、相手に作業が生じるお願い |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
並べると、言葉が指しているものが違うことが分かります。「恐れ入りますが」「恐縮ですが」は、お願いすること自体への気持ち。「申し訳ございませんが」は、わびる気持ち。「お手数ですが」は、相手の手間です。
「重さ」で比べるなら、語釈にわびる意味が入っている「申し訳ございませんが」が、いちばん重い言葉です。ふつうのお願いに毎回使うと、こちらに落ち度があったように読めたり、本当にわびる場面で言葉が足りなくなったりします。選び方は、次の順で考えます。
- こちらの都合や落ち度で頼むのか。そうなら「申し訳ございませんが」。日程の変更、再送のお願い、締め切りを早めてもらう、などです。
- 相手に作業が生じるのか。そうなら「お手数ですが」。書類の記入、ファイルの確認、返送、などです。
- どちらでもない、ふつうのお願いや質問か。そうなら「恐れ入りますが」。文面を硬めにしたいなら「恐縮ですが」。
迷ったら「恐れ入りますが」にします。頼むときにも尋ねるときにも使える、と辞書に書かれている言葉だからです。「お手数ですが」の使い方は、「お手数をおかけします」の使い方にまとめています。
電話・メール・訪問の例
次の例は、すべて説明用の例です。
電話
自分「[自社名]の[氏名]と申します。恐れ入りますが、購買部の佐藤様はいらっしゃいますでしょうか」
相手「佐藤は、ただいま席を外しております」
自分「承知しました。恐れ入りますが、お戻りは何時ごろのご予定でしょうか」
電話では、取り次ぎを頼む、戻りの時刻を尋ねる、相手の名前を聞き直す、という場面で使います。短い会話の中で二回出てきますが、頼む中身が変わっているので、不自然にはなりません。三回、四回と続くときは、「お手数ですが」「よろしければ」に変えるか、前置きなしで「お名前をもう一度お願いできますでしょうか」と言います。電話の受け方とかけ方は、電話対応の基本と営業電話のかけ方にまとめています。
メール
- 惜しい例1:「お忙しいところ大変恐れ入りますが、ご確認のほど、何とぞよろしくお願い申し上げます。」(何を確認するのか、いつまでかが無い)
- 惜しい例2:「恐れ入りますが、見積書をご確認ください。恐れ入りますが、ご不明な点はお知らせください。恐れ入りますが、金曜までにご返信ください。」(同じ言葉が三回)
- 良い例:「恐れ入りますが、添付の見積書の数量と納品先をご確認のうえ、◯月◯日(金)までにご返信いただけますでしょうか。ご不明な点がありましたら、あわせてお知らせください。」
惜しい例1は、言葉は丁寧です。けれども、相手は何をすればよいのかが分かりません。惜しい例2は、文ごとに前置きがあり、どれが本当のお願いなのかがぼやけます。良い例は、前置きが一つで、何を・いつまでにが一文に入っています。メール全体の組み立てはビジネスメールの書き方、「ご確認のほど」という言い方は「ご確認のほど」の使い方にまとめています。
訪問
(受付で)「[自社名]の[氏名]と申します。14時に、購買部の佐藤様とお約束をいただいております。恐れ入りますが、お取り次ぎをお願いできますでしょうか」
(商談の中で)「恐れ入りますが、今お使いの商品の型番を、教えていただけますでしょうか」
訪問では、受付で取り次ぎを頼むときと、相手に何かを尋ねるときに使います。お茶を出してもらったときの「恐れ入ります」は、お願いではなく、お礼の意味です。「ありがとうございます」でも構いません。
場面ごとに、置く言葉と、続ける中身をまとめます。次の表は一例です。
| 場面 | 置く言葉(一例) | 続ける中身 |
|---|---|---|
| 電話で取り次ぎを頼む | 恐れ入りますが | 誰に取り次いでほしいか |
| 聞き取れなかった名前を聞き直す | 恐れ入りますが | 「もう一度、お名前をお願いできますでしょうか」 |
| 書類の記入や返送を頼む | お手数ですが | 何を・どこへ・いつまでに |
| こちらの都合で日程を変えてもらう | 申し訳ございませんが | 元の日時と、代わりの候補 |
| 忙しい時期の相手に、時間をもらう | お忙しいところ恐れ入りますが | 何分ほしいか、何の件か |
| 社内の先輩に頼む | すみませんが/お手数ですが | 何を・いつまでに。職場の言い方に合わせる |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
迷いやすい判断
判断1:一通のメールに、何回まで使ってよい?
回数の決まりはありません。基準は、お願い一つにつき、前置きは一つです。一通にお願いが二つあるなら、一つめに「恐れ入りますが」、二つめは「あわせて」「また」でつなぎ、前置きを足さない形にできます。結びの「お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします」と合わせて、一通の中で二つまでを目安にすると、読みやすくなります。
判断2:「大変恐れ入りますが」「誠に恐れ入りますが」にしたほうがよい?
「大変」「誠に」を足すのは、相手の負担が大きいときです。急な依頼、休みの前の依頼、二度目のお願いなどです。ふつうの確認にまで足すと、本当に負担の大きいお願いのときに、足せる言葉が残りません。指針にも「敬語をたくさん使えば丁寧になるというわけではない。」(指針35ページ)とあります。
判断3:上司や先輩にも、「恐れ入りますが」を使う?
使って構いません。ただ、毎日顔を合わせる相手には、硬く聞こえることがあります。基準は、その職場で、先輩どうしがどう頼んでいるかです。「すみません、今よろしいですか」で通っている職場なら、それに合わせます。役員や、ふだん話さない他部署の人に頼むときは、「恐れ入りますが」が使いやすい言葉です。
判断4:「恐れ入りますが」と「すみませんが」は、どちらを使う?
指針は、前置きの表現の例として「すみませんが」を挙げています。「すみませんが」が誤りだ、という記述はありません。取引先あてのメールや電話では、「恐れ入りますが」のほうが改まって聞こえるので、使いやすい言葉です。対面で、とっさに声をかけるときは、「すみません」のほうが早く伝わります。
判断5:前置きを付けないほうがよい場面は?
あります。事故や納期の遅れなど、急いで事実を伝える場面です。「恐れ入りますが」より先に、何が起きたかを言います。相手から質問されて答えるときも、前置きは要りません。前置きは、こちらから頼むとき・尋ねるときに置くものです。
重ねすぎたとき・言い間違えたとき
失敗1:前置きを重ねたメールを、送ってしまった
その場では:言葉を直すためだけのメールは、送らなくて足ります。相手は、もう一通読むことになるからです。お願いの中身(何を・いつまでに)が抜けていた場合だけ、「先ほどのメールで、期限をお伝えしておりませんでした。◯月◯日(金)までにお願いできますでしょうか」と、中身を足す連絡をします(説明用の例です)。
後の記録:「前置きは一つ。送る前に、『恐れ入りますが』『お手数ですが』『恐縮ですが』を目で数える」と、自分のメモに残します。
失敗2:ふつうのお願いに、「申し訳ございませんが」を使い続けていた
その場では:直すのは、次のメールからで足ります。相手に「何かあったのか」と聞かれたら、「いえ、お願いの前置きとして書いておりました。失礼いたしました」と答えます。
後の記録:三つめの章の順番(こちらの都合か→相手に作業が生じるか→どちらでもないか)を、メモに写しておきます。
失敗3:電話で前置きが長くなり、用件を聞き返された
その場では:「失礼いたしました。◯◯の件で、佐藤様にお取り次ぎをお願いいたします」と、用件だけを短く言い直します。電話では、相手は文を読み返せません。前置きは一言にします。
後の記録:電話の前に、最初の一文を紙に書きます。「名乗り→恐れ入りますが→誰に→何の件で」の順です。台本の作り方は、営業のアポ取りにもあります。
今日やることは一つです。今日送るお願いを一つ選び、前に置く言葉を一つ決めて、「何を・いつまでに」まで書いてください。
意見や役目を引き受ける前に置く「僭越ながら」は、「僭越ながら」の意味と使い方にまとめています。
YOUR TURN
自分の一件で、書いてみよう。
手元に用意するもの
今日送る予定のお願いのメール(または電話のメモ)。お願いの期限が分かる予定表。
記入例を見る(説明用)
頼む相手と、お願いの中身=A社 購買部の佐藤様。見積書に記載する納品先の住所を、今週の金曜までに教えてもらう/相手にかかる負担=住所を調べて返信する手間。こちらの落ち度ではない。急ぎでもない/前に置く言葉=手間をかけるお願いなので「お手数ですが」。電話で切り出すなら「恐れ入りますが」/組み立てたお願いの一文=「お手数ですが、納品先のご住所を、◯月◯日(金)までにお知らせいただけますでしょうか。」/読み返して直した所=最初の下書きは「お忙しいところ大変恐れ入りますが、お手数をおかけして恐縮ですが」と三つ重なっていた。一つにした。期限が「なるべく早く」だったので、日付と曜日に直した。
CHECK
ここまでできたら、次へ。
お願いの一文に、前に置く言葉が一つだけ入っていて、何を・いつまでに、が書いてある。
うまく進まなかったときは?
前に置く言葉が選べなければ「恐れ入りますが」にして、先へ進む。お願いの中身が書けなければ、相手にしてほしい動きを一つだけ、動詞で書く(送る・確かめる・教える)。期限を自分で決められなければ、先輩に「A社へのお願いは、いつまでの期限でお伝えすればよいですか」と聞く。