NOTE 66 · 営業の実践ノート
どぶ板営業とは:言葉の意味と、足で回る営業を今やるときの準備
公開:2026年10月3日
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どぶ板営業とは、決めた地域を歩き、会社や店、家を一軒ずつ訪ねて回る営業を指して使われることが多い言葉です。決まった定義がある言葉ではなく、会社によって指す範囲が違います。今やるなら、気合いより先に、会社の方針、回る範囲、訪問の記録のしかた、断られたあとの動きの4つを決めてから歩きます。
この記事の目次 読みたいところへ ↓
こんなときに 「どぶ板で回ってこい」と言われたが、何を指す言葉で、何から準備すればよいか分からないとき。
- 1
「どぶ板営業」が自分の職場で何を指すかを、上司に確かめる
- 2
回る範囲と、行ってはいけない先を地図で決める
- 3
一軒ごとに書く記録の項目と、断られたときの一言を決める
- 4
回った後、記録を上司に見せて、次の回り方を相談する
会話・記入例は、説明用の例です。自分の案件の条件へ置き換えて使ってください。
どぶ板営業とは:一軒ずつ訪ねて回る営業を指す言葉
どぶ板営業とは、決めた地域を歩き、会社や店、家を一軒ずつ訪ねて回る営業を指して使われることが多い言葉です。「足で稼ぐ営業」と言われることもあります。法律や業界で決まった定義がある言葉ではなく、会社や人によって、指す範囲が少しずつ違います。
「どぶ板」は、辞書では、どぶをおおう板のことと説明されています(コトバンク「溝板」デジタル大辞泉)。同じ辞書には「どぶ板選挙」という言葉も載っています。どぶ板が並ぶような細い路地まで入って、一軒一軒を訪ねることから来た言葉で、選挙区をくまなく回って有権者に直接訴える選挙運動を指す、という説明です(コトバンク「溝板選挙」デジタル大辞泉)。
営業で使う「どぶ板営業」も、細い路地まで入って一軒ずつ訪ねる、という様子を指して使われています。この記事では、言葉の成り立ちをこれ以上は掘り下げません。大事なのは、自分の職場でこの言葉が何を指しているか、です。
「どぶ板で回ってこい」と言われたとき、上司が思い浮かべているものは、人によって違います。約束なしで新しい会社を訪ねることかもしれません。今のお客様を、こまめに顔を出して回ることかもしれません。言葉だけで動き出すと、行ってほしくない先へ行ってしまうことがあります。
この言葉は、「泥くさい」「根性がいる」という意味合いで語られることもあります。この記事では、気持ちの持ち方は扱いません。歩く前に何を決め、歩いた後に何を残すかを説明します。
飛び込み営業・ルート営業・ローラー営業との関係
似た場面で使われる言葉が、いくつかあります。次の表は、言い分けられることが多い形をまとめた一例です。線の引き方は、会社によって違います。
| 言葉 | 指すことが多い内容 | くわしい記事 |
|---|---|---|
| どぶ板営業 | 地域を歩き、一軒ずつ訪ねて回ること。やり方というより、回り方の様子を表す言い方 | この記事 |
| 飛び込み営業 | 前もって約束をせずに訪問すること | 飛び込み営業のやり方 |
| ローラー営業 | 決めた地域や一覧の相手を、もれなく順番に回ること | (この記事の「回る範囲」で扱います) |
| ルート営業 | すでに取引のあるお客様を、定期的に訪問すること | ルート営業とは |
| 深耕営業 | 取引のあるお客様との関係を深め、取引の幅を広げていくこと | 深耕営業とは |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
飛び込み営業は「約束があるかないか」、ルート営業は「取引があるかないか」に目を向けた呼び名です。どぶ板営業は、「足を使って一軒ずつ」という回り方に目を向けた呼び名です。目を向ける所が違うので、重なることがあります。約束なしで地域を一軒ずつ回るなら、飛び込み営業でもあり、どぶ板営業でもある、という言い方になります。
呼び名の全体の整理は、営業の種類にまとめています。呼び名がどれであっても、次の章の4つを先に決める、という準備は同じです。
今やるなら準備する4つ
歩き出す前に、次の4つを紙に書きます。下の実践シートと同じ並びです。
1. 会社の方針を確かめる
訪ねてよい相手、時間帯、渡してよい資料、その場で話してよい範囲は、会社ごとに決まりがあります。自分で決めずに、上司に聞きます。相手は、予定になかった訪問を受けることになります。決まりを外れた動きは、自分だけでなく、会社への苦情になります。
特に、個人のお宅を訪ねる仕事かどうかを、最初に確かめます。消費者の自宅などを訪問して契約をする取引には、法律のルールがあります。内容は、飛び込み営業のやり方の「個人のお宅を訪問する場合は、法律のルールがある」で、消費者庁の特定商取引法ガイドをもとに説明しています。自分の仕事が当たるかどうかは、自分で判断せず、会社の法務の担当か上司に確認してください。
2. 回る範囲を決める
「この町を全部」では、どこから歩けばよいか決まりません。地図を開き、通りや区画で、今日の範囲を区切ります。区切ると、回った所と、まだの所が、後から分かります。
範囲と一緒に、行ってはいけない先を書き出します。ほかの担当者がいる会社、以前にはっきり断られた先、「訪問は不要」と記録されている先です。これまでの訪問の記録があれば、歩く前に読みます。読まずに行くと、断った相手をもう一度訪ねてしまうことがあります。
入口に「セールスお断り」などの掲示がある先をどうするかも、歩く前に上司と決めておきます。
3. 訪問の記録のしかたを決める
一軒ずつ回る営業は、記録がないと、ただ歩いた日になります。一軒ごとに書く項目を、先に決めます。日付と時刻、対応してくれた人、相手の言葉、渡した物、次にすること、の5つが出発点です。
書くのは、建物を出てすぐです。数件まとめて後で書くと、どの相手の言葉だったかが混ざります。「感じがよかった」のような自分の感想は、相手の言葉と分けて書きます。帰ったら、会社で決まった記録の場所に写します。一日のまとめには、営業日報テンプレートも使えます。
4. 断られたあとの動きを決める
約束のない訪問は、断られることのほうが多くなります。断られたときに言う一言と、その後の扱いを、先に決めておきます。その場では、「承知しました。突然失礼いたしました」と言って帰ります。食い下がると、相手の仕事を止める時間が長くなるからです。
その後の扱いは、相手の言葉で分けます。「必要ありません」「訪問は受けていません」は、断りです。記録に「再訪問しない」と書き、上司に伝えます。「担当者が不在」「今は忙しい」は、都合の話です。もう一度行くか、電話で約束をお願いするかを、上司に相談します。断りの言葉ごとの返し方は、飛び込み営業のやり方に表でまとめています。
持ち物は、立ったまま片手で出せるかどうかで確かめます。歩く時間が長い日は、靴とかばんで疲れ方が変わります。靴は営業の靴の選び方と手入れ、かばんは営業のかばんの選び方にまとめています。
場面で変わるところ
4つを決めてから歩く、という骨組みは同じです。回る先と回り方によって、力を入れる所が変わります。次の表は一例です。
| 場面 | 力を入れる所 | 進め方(一例) |
|---|---|---|
| 会社や事務所を回る | 受付での最初の一言 | 名乗り、用件、小さなお願いを短く伝える。奥まで入らない |
| 店を回る | お客様がいる時間を避ける | 混んでいたら入らず、時間を改める。店員の手が空くまで待つ |
| 個人のお宅を回る | 会社の決まりと、法律のルール | 歩く前に、会社の法務の担当か上司に確認する。決まった手順のとおりに動く |
| 初めて回る地域 | 範囲を小さく区切る | 通りを一つ決めて回り、記録を上司に見せてから、次の範囲を決める |
| 2回目以降の地域 | 前回の記録を読む | 断られた先には行かない。「午後なら居る」など、聞いた言葉に合わせて動く |
| 一人で回る | その場で答えられないことの持ち帰り方 | 「確認して、あらためてご連絡します」と言い、相手の連絡先を聞く |
| 先輩と回る | 役割を決める | 話すのは先輩、記録は自分、のように分ける。一軒ごとに、先輩の言い方を書きとめる |
| 今のお客様の近くを回る | 今のお客様に迷惑をかけない | お客様の名前を、許しなく出さない。「近くへ納品に来ております」までにする |
表が収まらない場合は、左右に動かせます。
初めて回る地域で、範囲を小さく区切るのは、やり方を直す機会を早く作るためです。広い範囲を何日も回ってから記録を見せると、最初の一言や回る時間帯を直したくても、もう回り終えています。
約束なしで訪ねるときの、入口での動き方と最初の一言は、飛び込み営業のやり方にくわしく書いています。名前や部署が分かった相手には、次から約束を取って訪問する方法があります。お願いのしかたは営業のアポ取りにあります。
言い方の例:上司への確認と、訪問先での一言
ここに挙げる言い方は、どれも説明用の例です。自分の職場と相手に合わせて言い換えてください。
「どぶ板で回ってこい」と言われたとき
惜しい言い方:「分かりました。行ってきます」
良い言い方:「承知しました。3つ確認させてください。回るのは、駅の東側の会社と店でよいですか。行ってはいけない先はありますか。記録は、どこに書けばよいですか」
惜しい言い方は、返事としては気持ちがよいのですが、範囲も、行かない先も、記録の場所も分からないまま出ることになります。良い言い方は、範囲・行かない先・記録の3つを、はい・いいえか一言で答えられる形で聞いています。上司は、答えるのに時間がかかりません。
訪問先での最初の一言
惜しい言い方:「この辺りを回っておりまして。少しだけ、お時間よろしいですか」
良い言い方:「◯◯商事の山田と申します。梱包資材のご案内で伺いました。資料だけ、ご担当の方へお渡しいただけますか」
惜しい言い方は、誰が、何の用件で来たのかが分かりません。「回っている」は、こちらの事情です。相手は、何をお願いされているのかを聞き返すことになります。良い言い方は、名乗り・用件・小さなお願いがそろっていて、相手は「預かる」か「断る」かを、その場で答えられます。
断られたとき
惜しい言い方:「そこを何とか、資料だけでも見ていただけませんか」
良い言い方:「承知しました。突然失礼いたしました」
惜しい言い方は、熱心に見えますが、断った相手にもう一度断らせることになります。良い言い方は短く、相手の時間をそれ以上使いません。続きは、帰ってから記録を見て、上司と決めます。
迷いやすい判断と、失敗のあと
判断1:「古いやり方だ」と言われたら?
古いか新しいかは、ここでは決めません。商品、地域、相手によって、合う方法が違うからです。足で回る方法が合う仕事もあれば、電話やメール、問い合わせから始めるほうが合う仕事もあります。
基準は、会社がこの方法を選んでいる理由を知っているかです。知らなければ、上司に「この地域を歩いて回るのは、どんなお客様に会うためですか」と聞きます。理由が分かると、どの先を訪ねるかを選びやすくなります。問い合わせから始める営業は反響営業とは、電話やメールを中心に進める仕事は内勤営業とはにまとめています。
判断2:「効率が悪い」と感じたら?
感じたことを、そのまま上司に言う前に、記録を見ます。基準は、感想ではなく、記録で話せるかです。回った先、担当の部署が分かった先、資料を預けられた先、はっきり断られた先を、記録から拾い出します。時間帯や通りごとに違いがあれば、それも書きます。
そのうえで、上司には、提案の形で聞きます。「今週回った記録です。午前は不在の先が多く、午後は資料を預けられた先が多くありました。来週は午後を中心に回ってもよいですか」のように、記録と自分の案をそろえて見せます(説明用の例です)。「効率が悪いと思います」だけでは、上司は何を変えればよいかを判断できません。
判断3:同じ先を、もう一度訪ねてよい?
基準は、相手の言葉が、断りだったか、都合の話だったかです。はっきり断られた先には、自分の判断では行きません。「不在」「今は忙しい」だった先は、記録を上司に見せて、もう一度行くか、電話に切り替えるかを決めてもらいます。どれくらい間をあけるかも、会社の方針に合わせます。
判断4:何軒回ればよい?
この記事では、件数の目安は示しません。地域、移動の手段、商品で大きく変わるからです。目標は上司に聞きます。そのとき、「件数のほかに、何を見ればよいですか」も一緒に聞きます。回った数だけを追うと、一軒ごとの記録が雑になりがちです。
失敗1:行ってはいけない先を、訪ねてしまった
その場では:先輩が担当している会社や、以前に断られた先だったと気づいたら、用件に入らず、「確認が足りておりませんでした。失礼いたしました」と言って帰ります。相手から「前にも断った」と言われたら、言い訳をせず、おわびだけを伝えます。
帰ってからの記録:その日のうちに、上司と、その先の担当者に伝えます。記録には、「◯◯店:訪問不要の記録を読まずに訪ねた。次からは、歩く前に、範囲の中の記録を全部読む」のように、原因と次の動きを書きます(説明用の例です)。報告の順番は、営業で失敗したときにまとめています。
失敗2:記録を付けずに、一日歩いた
その場では:途中で気づいたら、そこで立ち止まり、覚えている順に、相手の名前と返事の言葉だけ先に書きます。思い出せない所は、想像で埋めずに「不明」と書きます。
帰ってからの記録:地図に、回った通りを書き込みます。次の日からは、建物を出たら、歩き出す前に書く、と順番を決めます。
失敗3:その場で、答えてはいけないことを答えた
その場では:価格や納期を聞かれて、決まりを確かめずに答えてしまうことがあります。気づいたら、「先ほどの金額は、正確なものを確認して、あらためてご連絡します」と言い直し、相手の連絡先を聞きます。
帰ってからの記録:何を聞かれて、何と答えたかを、言葉のまま書き、上司に伝えます。相手への正しい返事は、上司と決めた期限までに届けます。次に同じことを聞かれたときの答え方を、ノートの最初のページに書いておきます。
今日やることは一つです。明日回る範囲を地図の上で一つ決め、会社の方針・記録する項目・断られたときの一言を書いて、上司に見せてください。
YOUR TURN
自分の一件で、書いてみよう。
手元に用意するもの
回る地域の地図、会社の訪問の決まり、これまでの訪問の記録、ノートとペン。
記入例を見る(説明用)
会社の方針=訪ねるのは、駅の東側の会社と店。個人のお宅は回らない。時間帯は10時から16時。渡してよいのは会社案内と商品の一覧。価格は、その場では言わない(上司に確認済み)/回る範囲と、行ってはいけない先=駅の東口から大通りまでの2つの通り。先輩が担当しているA社と、以前に「訪問は不要」と言われたB店には行かない/記録する項目と、書く場所=日付と時刻、対応してくれた人、相手の言葉、渡した物、次にすること。建物を出たらノートに書き、帰ってから会社の記録に写す/断られたときの一言と、その後の扱い=「承知しました。突然失礼いたしました」と言って帰る。はっきり断られた先は、記録に「再訪問しない」と書き、上司に伝える/上司へ見せるもの・相談すること=今日の記録の全部。「担当者は午後なら居る」と言われた先に、電話で約束をお願いしてよいかを聞く。
CHECK
ここまでできたら、次へ。
会社の方針を上司に確かめてあり、回る範囲と行かない先が決まっていて、一軒ごとに何を書くかと、断られたときの一言が言葉になっている。
うまく進まなかったときは?
方針が分からないときは、歩き出す前に上司に聞く。回る範囲が広すぎて決められないときは、通りを一つだけ選ぶ。記録の項目が多くて書けないときは、「相手の言葉」と「次にすること」の2つから始める。